研究課題
基盤研究(C)
中性子過剰な原子核では、低励起エネルギー(10MeV以下)に電気双極子(E1)遷移の総和則の1~5%に相当する強度をもつピグミー共鳴が観測されており、核表面に現れる中性子スキンとの関連が指摘されている。中性子スキンの厚みは、核物質の対称エネルギーを決定する重要な物理量である。本研究では、鉛原子核に着目し、ニュースバル放射光施設において、直線偏光をしたレーザーコンプトン散乱γ線を用いた核共鳴散乱実験を行い、遷移の多重極度や強度を求め、正確なE1遷移の強度分布を決定する。得られた実験データをもとに、ピグミー共鳴の発現メカニズムと中性子スキンについて系統的に調べる。
本研究では、核共鳴蛍光散乱を用いて安定な鉛原子核の双極子準位を励起し、脱励起の際に放出される散乱ガンマ線の測定を行う。散乱ガンマ線の強度から、励起エネルギー5~8MeV領域の共鳴準位への電気双極子(E1)遷移の強度を明らかにし、中性子過剰な原子核の励起エネルギー10MeV以下に現れる中性子スキンとの関連を調べる。鉛204の核共鳴蛍光散乱実験から得られた実験データの解析から、励起エネルギー3.6~8.4MeVに136本の双極子遷移を観測し、それらの強度から共鳴幅を求め、電気双極子(E1)遷移を仮定し、換算E1遷移確率の評価を行った。その結果、励起エネルギー3.6~8.4MeVの全E1強度として、0.613(6)e^2fm^2が得られ、E1総和則の強度の0.546(6)%となることがわかった。また、核統計模型に基づくシミュレーションコードγDEXを用いて、準連続状態に起因する遷移強度を評価した。その結果、離散的な遷移に基づく強度より、9倍程度大きな遷移強度となることがわかった。多重フォノン配位を考慮した準粒子フォノン模型 (QPM)を用いた理論計算では、換算E1遷移確率が0.971e^2fm^2となり、実験から得られた離散的なE1遷移強度をほぼ再現する結果が得られ、準連続状態を含む遷移強度を再現するためには、より高い励起状態との結合を考慮する必要があることを明らかにした。また、陽子と中性子の密度分布の解析から、励起エネルギーが9MeV以上では、巨大E1共鳴で特徴的な陽子と中性子が逆位相で振動する状態が現れ、6.5~7.5MeVでは、核表面において中性子スキンが現れ、振動に寄与するピグミー共鳴的な運動モードが現れることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
鉛204の核共鳴散乱実験データの解析により、双極子励起準位に関する情報を取得し、離散的な準位に対する電気双極子遷移強度の評価を行うとともに、統計模型に基づくシミュレーション計算から、準連続状態に起因する遷移強度の評価を行った。また、準粒子フォノン模型 (QPM)を用いた理論計算との比較から、鉛204の振動状態について明らかにした。
鉛207に対する実験データを取得するとともに、E1遷移強度の微視的なメカニズムを明らかにするため、乱雑位相模型などを用いた理論分析を行う。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 1件)
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