研究課題
基盤研究(C)
「化石種はどのように定義すべきか」という命題に答えるべく,中生代放散虫のパンタネリウム属を例にとり,実用性を重視しつつも現生放散虫の種の認定と齟齬のない分類体系を提案することを目的とする.本研究の特徴は,X線マイクロCT技術を駆使して多数の個体の詳細形状データを取得することにある.種レベルの分類を試みる結果,1億年以上にわたって栄えたパンタネリウム属がどのような進化を遂げているのかが明らかとなる.
マリアナ海溝産の白亜紀最前期のパンタネリウム属放散虫59個体について,殻孔数を数えるとともに,すべての個体について5角形および6角形の殻孔枠の空間分布を展開図に示した.その結果,26個と32個の殻孔数にピークをもつ2つの正規分布が示された.32個の殻孔数をもつ個体が11個体と全体の約2割を占める.その前後にあたる31個や33個の殻孔数をもつ個体はそれぞれ1個体と極端に少ないという結果が得られた.殻孔数32個は,12個の5角形と20個の6角形からなり,1個の5角形を5個の6角形が囲むというバッキーボール型の配列をなす.この結果は,バッキーボール型は形態形成においてなんらかの最適化が働いていると予想される.殻孔数32個は,研究開始当初の予想どおり,マジックナンバーである.2連の5角形が6個の6角形の囲われるという規則性をもつ殻孔数28個についても,マジックナンバーとなると予想していたが,期待するほどは多くの個体はないという結果となった.マジックナンバー仮説は修正が必要かもしれない.ジュラ・白亜系境界を挟む陸域のセクションとして知られる高知県東部の美良布セクションにおいて,放散虫化石用の岩石試料の採取を行った.この試料は,石灰質ナノ化石の検出にも用い,放散虫と石灰質ナノ化石の統合生層序の構築に役立てる.パンタネリウム属放散虫が産出することは既存研究で明らかにされており,ジュラ・白亜系境界を意識してパンタネリウム属の進化を明らかにすることを目指している.
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルス感染症の流行のため延期になっていた第16回国際放散虫研究集会が2年遅れで開催され,研究成果を発表した(リューブリャナ・スロベニア:現地参加).2021年度に引き続き,ジュラ・白亜系境界の策定にかかわり放散虫の進化を反映した生層序基準面が有効であるという主張のなかで,パンタネリウム属の進化を紹介する講演を,第11回国際白亜系会議(ワルシャワ・ポーランド:オンライン)および第11回国際ジュラ系会議(ブダペスト・ハンガリー:現地参加)において行った.国際深海掘削計画にかかわるワークショップを2023年3月に新潟大学で開催した.このワークショップは,本科学研究費補助金と海洋研究開発機構(JAMSTEC)のIODP・ICDP関連ワークショップ等支援事業の経費を用いて実施したものである.本ワークショップでは,マイクロCT技術を駆使して獲得した放散虫殻の3次元形状データをもちいた研究成果を示した.また,進化系列を反映した放散虫の生層序基準面がジュラ・白亜系境界策定に有効であることを強調した.
コロナ禍による研究の進行状況の遅延にかんがみ1年間の延長を行った結果,2023年度が本研究課題の最終年度にあたる.最終年度では研究成果を論文化することを重視している.また,これまでの成果を発表する場としては,8月に東京で開催される第2回アジア古生物会議(APC2)および10月に富山市科学博物館で開催される第95回形の科学シンポジウムを予定している.このシンポジウムでは,2023年がプラネタリウム100周年にあたることに関連して,富山市科学博物館がもつプラネタリウム装置の利用を予定している.
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すべて 国際共同研究 (14件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 4件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (35件) (うち国際学会 17件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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