研究課題/領域番号 |
20K04838
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23030:建築計画および都市計画関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
卯月 盛夫 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (30578472)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | ドイツの都市計画 / 無作為抽出 / 計画細胞会議 / 市民会議 / 住民投票 / 合意形成 / 市民参加 / 民主主義 / 無作為抽出の市民 / サイレントマジョリティ |
研究開始時の研究の概要 |
日本における都市計画やまちづくりの市民参加は、1980年代以降まちづくり条例の整備によって大きく進んだが、まちづくり協議会やワークショップに参加する市民は、関心が高い層である。それに対して、ごく一部の市民の意見で政策決定してよいのかという批判もあり、近年サイレントマジョリティの意見を反映するために「無作為抽出の市民」を加えた会議が増えている。そこで本研究は、ドイツで1970年代より実施されている無作為抽出の市民による「計画細胞会議(プラーヌングスツェレ)」という市民参加手法に着目して、ドイツでの実施事例を調査し、今後の日本における無作為抽出市民による市民参加手法の開発に示唆を得ることとする。
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研究実績の概要 |
無作為抽出で選ばれた市民によるPZ(プラーヌングツェレ、計画細胞会議)の38事例に関する調査をこれまで行ってきた。ドイツ国内ではこの25年間で、平均すると1 年に1~2回実施され、バイエルン州が6事例と最も多く、市ではベルリン市が3事例、ミュンヘン市が3事例となっている。PZのテーマは多岐にわたっているが、都市計画が12事例とほぼ1/3を占めており、次はエネルギー関係である。無作為抽出で選ばれる市民は、1回のPZで30人~100人(1~4ユニッ ト)、対象年齢も近年は14才以上が多く、若年層の意見が重要視される傾向にある。 PZ実施の目的は、大きく二つに分けられる。ひとつは今後実施する施策に関して無作為抽出の市民と意見交換をしながら方向を決めていくタイプ1。もうひとつは、ある施策に関して市議会や行政、市民の意見が分かれ決定が難しい場合に、無作為抽出の市民と共に大きな方向をみつけていくタイプ2がある。いずれにしても、市民の平均的な意向を確かめ、その後の施策に生かす重要な手法ということができる。住民投票との関係でいえば、タイプ1ではPZの後に、確認の意味で住民投票を行うケースがある。またタイプ2では住民投票によって意見の対立が明らかになった後に、PZを行っている。住民投票制度の各州比較によると、バイエルン州とブレーメン州が進んでいる。 さらに2021年1~2月には、ドイツ連邦レベルでBuergerrat(ビュルガーラート、市民会議)が開催された。これは、ドイツ全土で無作為抽出の169人の市民によって「世界におけるドイツの役割」というテーマで50時間オンラインセッションで実施されたもので、名称はPZと称されてはいないが、内容はほとんど同じである。このことから、無作為抽出の市民による会議は、地区レベルの計画から市全域、さらに州や連邦レベルの施策まで幅広く応用されていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1997年から2019年までに実施されたPZの38事例に関して、プロジェクト名称、実施年月日、州と都市名、テーマ、発注者、テーマ、目的、実施機関、具体的なプログラム、無作為抽出の方法、参加者の人数・年齢・属性、実施後の動き等に関してインターネットを中心に調査を行った。 ドイツにおいてPZを実施する代表的な機関は3つあり、当初はその3箇所を直接訪問する計画であったが、2020年度はコロナにより訪独することがで きなかったため、1箇所のみオンラインインタビューを行った。相手はヴッペルタール大学民主主義と参加研究所所長のH.J.Liezmann教授で、PZを開発した P.C.Dienel教授の後任者である。彼は多くのPZを企画実施しているため、インターネットや文献調査では得られないPZの理論や哲学、現代政治との関わり、実務的なノウハウ、さらに彼が2020年度より関わっているドイツ連邦議会のBuergerrat(ビュルガーラート、市民会議)に関しても、多くの知見を得ることができた。 2021、22年度においては、38事例から都市計画をテーマとする特徴的な6つのPZ事例を抽出し、現地調査を行う計画であったが、コロナにより渡独することが困難となったため、行政やマスコミ資料等のインターネット調査を行った。その結果、調査事例ではいずれも、PZを制作決定に際して積極的に生かしていることがわかった。 さらに、当初調査対象ではなかったが連邦レベルでのBuergerratの実施事例が近年増加しているため、以下の3事例に関してインターネット調査を行った。①Buergerrat「民主主義」(2019年)、②Buergerrat「世界におけるドイツの役割」(2020ー21年)、③Buergerrat「気候」(2021年)。コロナにより渡独の現地調査ができなかったことから、当初の計画にやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、長期間にわたるコロナパンデミックのため渡独できず、ドイツのキーマンとはEメールおよびオンライン会議でインタビュー、意見交換を行なってきた。また、行政やマスコミ資料を中心にインターネット調査を行っていく中で、重要な文献資料については翻訳整理を実施した。 しかし2023年度は研究の最終年度でもある上、大学においても海外出張が大幅に緩和されたことから、これまでの研究成果を確認ブラッシュアップするために、訪独をする計画である。PZ(プラーヌングスツェレ、計画細胞会議)を運営する専門機関3箇所の代表(ベルリンのnexus所長ベルリン大学Dienel教授、ミュンヘンのgfb所長Sturm教授、ブッペルタール大学IDPF所長Liezmann教授)、および住民投票のデータバンクを作成する情報センターであるNPO法人(Mehr Demokratie)については、直接訪問しインタビューを行う。 また、PZおよび住民投票が実施された現地調査に関しても、これまでの文献調査をふまえて、ベルリン、ミュンヘン、メミンゲンの3都市を訪問し、行政、市民団体、関係した専門家へのインタビューを予定している。以上のドイツ現地調査によって、無作為抽出市民によるPZの役割と特徴、具体的な技術手法、さらに住民投票との関係をより明確にしたい。 なお最終年度として「ドイツにおける無作為抽出の市民参加手法に関する報告書」をまとめると共に、日本における導入可能性を検討し、日本版モデルの構築を提案する。
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