研究課題/領域番号 |
20K04908
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23040:建築史および意匠関連
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
崎山 俊雄 東北学院大学, 工学部, 准教授 (50381330)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 建築技術者 / 技師 / 技手 / 戦後 / 道府県庁 / 経歴 / 人材移動 / 工学教育 / 土木技術者 / 建築技術 / 土木技術 / 技術伝播 / 技術経歴 / 建設技術者 / 技術官 / 技術者 / 人材供給 / 職能形成 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、大正期~昭和戦後復興期を対象として、道府県庁に在勤した建設技術者の氏名・経歴と、彼らが現代に残した成果を解明する。 ①まず、当該期間に在勤した技術者の氏名・職位・在任期間等の基礎情報を集める。既に申請者は、明治期の建設技術者に関する3,000名規模のデータベースを独自に作成しており、これを拡充する。②次に、抽出した技術者の履歴簿等を可能な限り収集する。③その上で、歴史的な文書や設計図面等を収集し、各技術者が関与した事業の内容について把握する。④以上を踏まえ、最終的には、地方建設技術者の職能形成過程と、それらが近代における地方の建築や都市に及ぼした影響について解明することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、大正期から昭和戦後復興期を対象として、道府県庁の建設技術者、ひいては地方における近現代の建築や都市が如何なる枠組みの下で造られたのかを解明することを目的としている。令和5年度は、文献調査とデータの整理、および遺構調査を中心に研究を進めた。令和5年度の重点課題と結果の概要は以下の通りである。 <重点課題> ①主に戦後期に在勤した道府県庁の技術者と周辺人物の把握:国立国会図書館や各県立図書館等に所蔵される史資料(主に各年版の職員録)を収集し、道府県庁に在籍した技術者の氏名・在職期間・専門分野・経歴に関する情報のデータベース化を推進する。特に部課長級を優先して進める。②戦前期における工業・工学系専門学校等の卒業生名簿と勤務先データを各年で収集し、工業・工学系専門学校等を介した土木・建築系技術者の社会移動と転職に関する情報のデータベース化を推進する。③前年度からの現地調査を継続し、当該期において地方の建築がどのような体制で建設されたかの事例分析を進める。 <結果概要> ①例えば昭和32年の局部課長の建築技術者67 名の出身校を見ると、最も多いのが東京大学出身者で22 名を数え、早稲田大学10 名がこれに次いだ。東京工業大学6 名、名古屋高等工業学校6 名、日本大学と神戸高等工業学校が各3 名と続き、これらを含む高等教育機関の出身者で61 名に達した。また局部課長の平均年齢は47.9 歳であった。 ②東北地方の課員級技術者では、学校数が多い宮城県で県内学校からの就職者が70% を超え、青森県と岩手県の場合は60%弱、秋田県と山形県では40% 強であった。福島県は突出して他県の学校の卒業生が多く、県内の学校からの人材供給率は20% 台であった。大局的には高等教育機関の卒業者を管理職として県内出身の中堅技術者が実務を担ったシステムであったが、県ごとの違いの原因分析は今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①建築分野における戦後の官庁技術者の基礎情報を全国的な視点で収集することができた点に特筆すべき進捗を見た。秀でた技術者が個別に注目・評価される例はかねてより知られるが、これらを全国的な視点で、かつ、組織論的に分析をした成果は従来ほとんど無かった。現在は部課長級人材の分析にとどまるが、その成果は、本研究課題にとどまらない一層の研究展開の可能性を開くものと言える。 ②東北六県に関しては、①に加えて昭和30年代における課員の集団的動向を検討できる段階に到達した点も重要な成果であった。教育機関の整備や学校種別、学歴との関係性も含めて、人材移動を歴史的に論じる視座を獲得することもできつつある。今後の調査・分析を展開するための基礎的な検討も完了した。 ③工業・工学系専門学校の卒業者情報のデータベース化に着手した点もまた大きな前進であった。特に東京・横浜・名古屋・仙台・神戸の各高等工業学校に関しては、土木・建築系学科の卒業生の勤務先(就職先)を年別にデータベース化した。分析は今後の課題となるが、従来教育史の観点から行われてきた分析に専門性の視点を加味して精査できる材料が揃いつつある点は、今後の展望を開く成果である。 ④隣県だが複数の事例に対して継続した点も令和5年度の成果の1つであった。調査対象には民間建築も含まれており、官民の比較を行うことが可能となった点も重要な進展であった。特に民間建築では、棟札等から秋田県南地域の大工の社会移動を考察できることを確認し、官庁技術者との比較考察が可能な状況にある。双方の違いを検討することが出来れば、当初の計画を上回る成果につながることものと期待される。 ⑤一方、戻りつつあるとは言ってもコロナ禍の影響が尾を引き、全国的なデータの収集は当初の計画に対してやや遅れている。別な面では当初の計画以上の深化も認められているが、この点が研究期間の延長申請につながった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえつつ、次年度は ①東北以外の地域における戦後の課員級技術者の基礎的な情報の収集(氏名・在職期間・前後歴など)、②教育機関の変化発展(新制大学設置後の状況)や卒業生情報のさらなる収集を進める。 また、③これまで十分に実施できなかった各県公文書館での建設事業記録の収集に注力する。東北地方では宮城・秋田・岩手の各県での調査を継続し、更に関東甲信では史料の豊富な神奈川・埼玉・群馬・長野の各県で重点的に調査を計画する。関西では同様に京都府と奈良県を中心に、中国地方では山口県を中心に、そして九州では長崎県を中心に調査を行い、当該期の建設事業に関する史料(公文書、写真、絵図面等)を収集する。なお各県の公文書館における史料情報は既にリストアップ済みである。 一方、データの蓄積は概ね順調に進捗している状況を踏まえて、令和6年度には、④これまでに収集した情報の整理、史料の読解、および分析にも一層注力する。特に分析に際しては、時間軸(時代の違いによる人材移動傾向や経歴傾向の違い、および既収集の建築仕様書や図面の読解に基づく計画技術・構造技術の違い)と、地域軸(同年代における地域ごとの人材移動傾向や経歴傾向の違い、および同年代・同一建築類型(庁舎・官舎・学校等を想定)に見られる地域ごとの違い)を中心に、地理的バランスにも配慮して比較を行うことを想定している。なお、その過程でまとめた成果については、⑤調査研究の成果を日本建築学会大会(口頭発表)、近代仙台研究会(同)、日本建築学会各支部研究報告集(査読なし論文)等で公表し、その歴史観について、研究者コミュニティに問うことも予定している。
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