研究課題/領域番号 |
20K05183
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26060:金属生産および資源生産関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
森下 政夫 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (60244696)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 低負荷 / 放射性物質 / 熱容量 / 反磁性 / 常磁性 / フェリ磁性 / スピン / 放射光X線回折 / 強磁性 / フォノン / 熱力学諸量 / エントロピー / ヒステリシスループ / 凍結解凍 / 第3法則エントロピー / 標準生成ギブズエネルギー / 標準溶解ギブズエネルギー / 地球化学シミュレ-ション / マテリアルズインフォマティクス |
研究開始時の研究の概要 |
電気化学的に卑な水溶液中イオンとその固体の母相の統合熱力学を探求するため,前回の科研費受給研究(基盤26420758)を更に発展させ,ユニバーサルな熱力学諸量を決定する.固相の極低温から高温に至る第3法則エントロピーと標準生成エンタルピーを測定してその標準生成ギブズエネルギーを決定し,またイオンの飽和溶解度測定によって標準溶解ギブズエネルギーを決定し,熱力学サイクルを完成することにより,固相とイオンの熱力学諸量を統合して決定する.測定対象物質として,使用済核燃料ガラス固化体中に生成するモリブデン酸ジルコニウム複酸化物など,水溶性の有害相Yellow phase群を選択して実施する.
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研究実績の概要 |
水溶液中イオンの熱力学諸量を決定するためには、固相からイオンに至る熱力学サイクルを完成させなければならない。著者らは、当該研究の前段階として、平成26~30年度において、基盤研究(C)(26420758)を実施し、この固体の母相のイエロ-フェーズ群である金属イオンが正1価のAg2MoO4(cr)、正2価のMgMoO4(cr)、CaMoO4(cr)、SrMoO4(cr)およびBaMoO4(cr)について、熱力学サイクルを構築し、熱力学諸量を決定した。また、これらの母相から溶出するMoO4 2-(aq)の熱力学諸量を決定した。しかしながら、さらにユニバ-サルな値に高めるためには、金属イオンが正4価の固体の母相を検討する必要がある。当該助成研究において、正4価の金属イオンからなるZrMo2O8(cr)の熱力学諸量の測定を進めた。 R2年度において菱面体晶ZrMo2O8(cr)の単相の作製に成功して2-400 Kの熱容量を測定した結果、冷却過程と昇温過程とではその値が異なることを見出した。R3年度この菱面体晶ZrMo2O8(cr)の320-2 K磁性を測定した結果、冷却に伴い、反磁性相、常磁性相を経て、極低温でフェリ強磁性相に磁気相転転移することが分かった。また、極低温でフェリ磁性相としてスピンが規則化すると、その状態は凍結し、昇温過程において、その凍結状態は高温温側まで維持されることを見出した。R4年度この菱面体晶ZrMo2O8(cr)が特異な熱容量と磁性の特異な温度履歴現象を発現する理由を解明するため、放射光Spring 8を用いて極低温までXRDを実施した。その結果、熱容量と磁性の特異な温度履歴現象は、特異なイオン配置の温度変化によって持ち来たらされることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
R3年度において、菱面体晶ZrMo2O8において特異な磁気相転移が発現することを見出した。冷却過程において、まず、320-70 Kにおいて反磁性相、次に、70 -40 Kにおいて常磁性相に相転移し、さらに、40 K以下ではフェリ強磁性相に相転移することを見出した。昇温過程では、1.8-40 Kにおいてフェリ磁性相の磁化が減少し、しかし、40 K以上で磁化は上昇に転じて50 Kで極大値を示した後、50-80 Kにおいて、常磁性相として磁化が減少した。80-320 Kにおいて、反磁性相に相転移した。 R4年度、磁性の特異な温度履歴現象を明らかにするため、Spring 8による放射光XRDを極低温まで実施した。冷却過程において、反磁性相および常磁性相領域では、温度の低下に伴い回折角が低角度側にシフトし、すなわち、熱膨張の逆温度依存性(負膨張)が起きることが分かった。一方、フェリ磁性相に相転移すると、負膨張が停止して格子一定となることが分かった。昇温過程の構造変化は冷却過程に類似しているが、これらの磁気相転移点は、高温側にシフトすることが分かった。 この物質中MoO4四面体クラスタ-の4つの酸化物イオンのうち3つは架橋酸化物架橋酸化物イオン(OB)であり一つは非架橋酸化物イオン(ONB)である。低温において、自由度の高いONBとMo6+イオンの結合長が静電相互作用によって減少すると、Mo6+イオンはONBの電子を受給し、常磁性およびフェリ磁性が発現すると考える。一方、OBとMo6+の結合長は負膨張によって低温ほど増加する。これらの結合長の減少と増加が相殺した結果、フェリ磁性相において格子一定となると推測する。極低温までの冷却によってONBの格子位置が一旦凍結されると、その格子位置は解凍されにくくなり、その結果、昇温過程において、磁気相転移点は高温側にシフトすると考える。
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今後の研究の推進方策 |
R4年度に実施した菱面体晶ZrMo2O8のSpring 8による放射光XRDによって推測した構造と磁性との関係を解明するためには、OBとONBのイオン位置をリートベルト解析によって明らかにする必要がある。R5年度、リートベルト解析を行い、これらのイオン配置の変化をより詳細に解明し、また、適切な画像ソフトを用いて視覚化を試みる。反磁性領域における負膨張はOBの秤動運動による結果と考えられる。OBとMo6+の結合の法線方向を直径とする円周としてOB が周回する秤動運動では、温度が低いほど、その円周の直径が減少し、OBとMo6+の結合距離は増加して熱膨張の逆温度依存性、すなわち負膨張が発現すると考える。この秤動運動を明らかにするためには、リートベルト解析を実施する必要がある。一方、常磁性およびフェリ磁性の発現は、ONB がMo6+イオンに接近してスピン偏極した電子を供与するためと推測する。このONB による磁性発現効果を解明するため、OB の検討に相補し、リートベルト解析を実施する必要がある。また、電気抵抗率の測定を行い、イオン配置の変化に伴う、電子の輸送がどのように変化するか明らかにする。 菱面体晶ZrMo2O8は使用済核燃料ガラス固化体中に生成するイエローフェーズ結晶群の一つである。R5年度、ZrMo2O8を地層処分した場合の地下水への溶出を評価するため、その純粋への飽和溶解度を吸光度法によって測定する。以上述べたように、OB およびONBはその格子位置を揺動している。この揺動と飽和溶解度との関係を明らかにする。 また、純水への飽和溶解度から標準溶解ギブズエネルギーを決定する。この標準溶解ギブズエネルギーとこれまで決定した第3法則エントロピーなどの熱力学諸量とから熱力学サイクルを構築し、ZrMo2O8の相安定性の指標である標準生成ギブズエネルギーを推算する予定である。
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