研究課題/領域番号 |
20K05187
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分27010:移動現象および単位操作関連
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
町田 基 千葉大学, 総合安全衛生管理機構, 教授 (30344964)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2021年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2020年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | 水質汚染物質 / 硝酸イオン / リン酸イオン / 吸着除去 / 活性炭素 / 窒素ドープ / 第四級窒素 / イオン交換 / 第4級窒素 / 陰イオン吸着 / アミン / 吸着 / 陰イオン / 水質汚染 / イオン性物質 / 炭素繊維 |
研究開始時の研究の概要 |
地下水などの水質汚染は日本を含め世界的に進行している。バングラデシュなどの途上国では,ヒ素汚染により既に人の健康に悪影響を及ぼしているところもある。日本でも全国的に地下水の硝酸イオン汚染が進行している。これらの陰イオンに対して,将来,低コストで有効な対策が求められるが,WHOや米国環境保護局(US-EPA)では吸着剤を使用した汚染物質の除去が有効であるとしている。本研究課題は,熱や酸・アルカリに耐性があり再生利用しやすい多孔性の炭素材料の表面に窒素などのヘテロ元素を導入して,現在広く使われている活性炭などをはるかに凌ぐ高性能の炭素系陰イオン吸着剤の設計・調製を実現しようとするものである。
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研究実績の概要 |
本研究は水質汚染物質,地下水や河川水(淡水域)などの環境水中に溶解している硝酸イオン,リン酸イオンといったそれら自体が汚染物質であると同時に湖沼の富栄養化や沿岸域の貧酸素海域の原因物質となっているイオン性物質を選択的かつ効率的に除去するための炭素系吸着剤の開発をしている。硝酸イオンについては地下水ばかりでなく水道水や市販ボトル水にも含まれており,世界的に高濃度で汚染が進んでいる地下水からの効率的除去は,今後,ワールドワイドに解決すべき大きな課題になると予測される。 例えば水道水からの硝酸イオンの吸着除去にはプラスチック製のイオン交換樹脂が広く使われているが,耐酸・耐アルカリ性や耐熱性に問題があるため再生利用がし難い。一方活性炭(AC; Activated Carbon)などの炭素系吸着剤は酸・アルカリ処理や加熱などによる再生利用もし易く,廃棄の際にも硝酸・リン酸イオンが付着したままでも肥料として撒くことも可能であり環境に与える負荷は殆どない。但し活性炭はフェノールやトリハロメタンなど有機汚染物質の吸着には有効であるが,水に溶解している重金属イオンや硝酸・リン酸イオンなどの無機汚染物質の吸着の能力は殆どない。 実験室レベルでは既に炭素系の陽イオン吸着剤の開発ができているので,本研究課題では硝酸・リン酸イオンなどの陰イオン吸着に有効な炭素表面を実現させるべく実験研究を進めている。具体的には,含窒素官能基として陰イオン吸着に有効と思われるアミノ基や第四級窒素(N-Q; Quaternary Nitrogen)などの窒素形態の導入に絞ってして検討を進めた。令和5年度は特に常に正に帯電しているN-Q窒素種の導入に集中して実験検討した結果,いくつかの材料や方法でN-Q窒素種の導入が可能であり,硝酸イオン・リン酸イオンなど陰イオンの吸着性能の向上を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題4年目(研究期間は5年)のR5年度は既に性能を発揮している炭素繊維(ポリアクリロニトリル繊維;PAN繊維)具体的には炭酸ナトリウムによって賦活したフェルト状PAN繊維(炭素繊維の吸着剤,ACF; Activated Carbon Fiber)を用いて実用的な使用を視野に入れて連続流通式の吸着性能について調べた。吸着剤を充てんするカラム内径の最適化(内径:7 mm)や硝酸イオン含有水溶液の酸性度(溶液pH)による影響を検討した。その結果,調製したACFが再生利用に耐えること,そして硝酸イオン溶液が酸性側の方が吸着速度が大きくなることが判明してフロー実験の指針を確立でき,現在は他の実験にも適用している。 これまでの私共の研究からイオン性物質の吸着には,吸着剤の表面積よりも表面官能基がポイントとなることが判っている。そこで表面積が殆どないPAN繊維をヨウ化メチルと反応させることによって表面の窒素種をメチル化して第四級窒素(N-Q)に転化することを試みた。その結果,未処理のPAN繊維はCπサイト(露出したグラファイト表面)もないので硝酸イオンを全く吸着しないのに対して,メチル化処理PAN繊維は最大で0.8 mmol/g以上の吸着量を示した。 R4年度までにグルコースやフルクトースなどの単糖・二糖類に代表的含窒素化合物である尿素やメラミンを添加して塩化亜鉛賦活すると生成したAC表面にN-Qが生成して硝酸・リン酸イオンの吸着能が向上することを明らかにした。R5年度は単糖類のグルコースの代わりに多糖類であるセルロースを主成分とする松かさ(バイオマス,通称;松ぼっくり)を用いてACを調製した結果,N-Qの導入に成功し,グルコースからのACには及ばないものの松かさのようなバイオマスからも硝酸イオン吸着量で1.0 mmol/g(目標値)以上のACの調製ができることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
R6年度は本研究課題(研究期間:R2~R6年度)の最終年度に当たる。科研費の重複応募により,研究の範囲や規模を大きくしてR6年度からさらに3年以上の期間にわたって研究の発展をさせることを意図したが不採択であった。 R5年度までに既に研究開始当初の陰イオン吸着性能の目標(硝酸イオン吸着量で1.0 mmol/g)はほぼクリアしているが,これまでの研究で見出してきた知見にもとづいて,新たな調製方法を試み,さらなる硝酸・リン酸イオンの吸着性能の向上に努める。 具体的には活性炭素繊維(ACF)表面に酸素官能基を導入して,その後尿素添加することによっても尿素中の窒素をN-Q窒素に転化することができるのでこの系の最適化を図る。また,グルコースやフルクトース以外の他の含酸素化合物や松かさの代わりに他のバイオマスを用いて尿素を添加して塩化亜鉛賦活することによっても硝酸・リン酸イオンの吸着性能を向上させることができるので,どのような炭化水素(窒素を含有しない出発物質)と尿素の組み合わせが最適であるのかを見出して,N-Q窒素の生成メカニズムを明らかにすると共に,将来の炭素系の高性能吸着剤のデザイン指針を示していく。 また,R5年度までに確立した連続流通式の実験による吸着剤の評価も採り入れて,吸着剤の再生や繰り返し利用についても検証し,実験室スケールではあるが将来の社会実装(例えば家庭用の浄水器のカートリッジへの充填など)にも対応したデータを示していく。 最終的には得られた知見をまとめて,学会発表したり,総説など論文にまとめたりして,研究成果を社会に発信して水質汚染物質の除去のための吸着剤の研究開発の指針を示していく。
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