研究課題/領域番号 |
20K05319
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浜田 雅之 東京大学, 物性研究所, 技術専門職員 (00396920)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 走査トンネルポテンショメトリー / 走査プローブ顕微鏡 / 表面電気伝導 / 電位測定 / 表面状態伝導 / 走査トンネルポテンショメトリ / 走査トンネル顕微鏡 / 表面電位 |
研究開始時の研究の概要 |
表面の電気伝導現象は、原子欠陥・吸着原子・分子といった局所的な乱れから影響を受けるが、低温では、電子のコヒーレンス長の増大のため、電子波の局在・閉じ込め効果などの局所構造間の相関が重要となる非局所現象が顕著となり、室温では見られない特異な電子輸送特性が現れると予想される。そこで、それを可視化するために低温でも動作する温度可変型走査トンネルポテンショメトリ(VT-STP)という顕微鏡を開発する。そして、それを用いてナノスケールの空間分解能とマイクロボルトレベルの電位分解能で試料表面の電位分布像を取得し、個々の局所構造やそれらの相関がどのように表面電気伝導特性に影響を与えるかを解明していく。
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研究実績の概要 |
表面平行方向の電気伝導特性は、ステップなどの原子欠陥や吸着原子といった局所的な乱れから影響を受けることが知られているが、低温では、電子のコヒーレンス長が長くなるために、電子波の局在・閉じ込め効果等の局所構造間の相関が重要となる非局所現象が顕著となり、室温では見られない特異な表面電気伝導現象が現れることが期待される。また、これまで4端子法で表面電気伝導は評価されてきたが、それはあくまでも端子間の平均的な評価で、個々の局所情報を得ることは容易ではない。そこで、それを可視化するために低温下で動作可能な温度可変型走査トンネルポテンショメトリ(VT-STP)という顕微鏡の開発を目指してきた。テクニカルに最大の問題となっているのは、STP実験のために、表面上の2か所で電気的接触を取る方法である。目指している表面系のSi清浄表面上に異種原子を吸着し作成される長周期構造を持つ系に対しては、表面作成過程で1200℃程度の高温熱処理が必要な事が多く、電気的接触を得ることは容易ではない。これまで、そのような高温に耐えられてかつ不活性であるTa電極を表面に作成することで電気的接触をとることに成功しているが、Ta電極の作成時間の低減・精密な膜厚制御を可能にするために、これまでのプラズマガン方式による蒸着から、スパッタによる蒸着でTa電極を作成した結果、Si表面上に異種金属を吸着させて作成した清浄表面に通電することに成功し、室温下でSTP測定を行うことに成功した。また、測定の歩留まりを向上させるために、犠牲酸化膜処理による熱処理温度の低減、レーザー光による局所加熱、静電容量を利用した探針の位置制御等を試みた。以上のように、Ta電極によって表面に電気的接触をとるめどがついたので、低温下での実験の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
我々の目標とする表面系の一つのSi清浄表面上に異種原子を吸着し作成される金属的な電子状態を持つ表面を作成するには、1200℃程度の高温熱処理が必須であるので、そのような表面上の2か所に電気的接触を取ることが、多探針STMを用いる以外の方法では、一般的に容易なことではない。そこで、そのような高温に耐えられて化学的に不活性であるTa電極を作成してきたが、この高温処理の温度加減で作成したTa電極が破損してしまうことが少なくない。そこで、我々はこの熱処理温度を下げる方法として、一般にSi基板の水素終端処理を行う前処理で行われる犠牲酸化膜処理を施してみたところ、必要とされる処理温度が若干低下することが分かった。さらに、加熱時の電極破損を防ぐ策として、加熱される範囲を必要最小限にすることが考えられる。そのための熱処理の方法として、チャンバーの外部からビューポートを通してレーザーを試料表面に直接照射を試みるための光学系のセットアップ等を行った。また、これまで使っていたプラズマガン方式の蒸着装置だと、放電トラブルや運用コストの問題等のため日常的にTa電極を作成するのは現実的ではない。そこで、汎用の高出力タイプの電子ビーム蒸着やスパッタ蒸着によって、Ta電極を作成し加熱テストをしたところ、プラズマガン方式で作成した膜厚よりも厚くなってしまうが、1200℃程度の高温に耐えられる電極を作成することに成功し、更に、その電極を用いて、Si清浄表面に異種金属を吸着した再構成表面でSTP実験を室温で行った結果、電極間に電位勾配が確認できたので、もっぱら表面平行方向に通電できることが明らかになった。また、スピントロニクスの分野でも興味が持たれることの多いトポロジカル絶縁体薄膜のSTP測定行ったところ、表面電流によると思われる電位勾配が観察できた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度では、「清浄表面上の電極作成の方法の改善」に取り組んだ。Si基板表面の自然酸化膜上に平坦な酸化膜(犠牲酸化膜)を作成することによって、100℃程度低い温度での清浄表面の作成に成功した。 次年度では、Ta電極作成自体にコストが掛かってしまうプラズマガン方式の蒸着方法ではなく、高出力型の電子ビーム蒸着装置やスパッタ蒸着装置によって作成してみたところ、スパッタ蒸着で作成した方が手返し良く作成できることが分かった。更に、そのように作成した電極で、Si清浄表面に異種金属を吸着して得られた再構成表面でSTP実験を室温で行った結果、表面像にその再構成構造が確認できる分解能能で、それに対応する電位像を取得することに成功した。また、Ta電極への加熱処理時のダメージの軽減には、加熱温度の低減だけではなく、加熱範囲も狭くした方が良いと考えて、レーザー照射による試料加熱を試せるように、光学系・温度計測装置の設置を行った。ところが、前述のTa電極作成だけではなく、開発の母体となっている低温STMに度重なる装置トラブルや大規模修繕のために回路系の変更等により進捗に大きな遅延が生じてしまった。しかし、現在はこれらの障害も回復し、温度可変型走査トンネルポテンショメトリ(VT-STP)用の新しい制御回路も完成に近づいている。残りの研究期間は、VT-STPの実験に速やかに着手する予定である。Si(111)-√3×√3-Agの表面にAuなどの異種元素を蒸着した表面系を、様々な温度・磁場下でSTP測定を行い、その電位像の差から弱局在効果(非局所電気伝導特性)の直接的証拠にアプローチしたり、余力があれば、まだSTP測定があまり行われていない表面系の測定を試みることも目標とする。
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