研究課題/領域番号 |
20K05373
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30020:光工学および光量子科学関連
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研究機関 | 石川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
佐野 陽之 石川工業高等専門学校, 一般教育科, 教授 (80250843)
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研究分担者 |
桑原 正史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (60356954)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 相変化 / 光スイッチ / 物理シミュレーション / 第一原理計算 |
研究開始時の研究の概要 |
相変化材料の自己保持性を利用した“高速で低消費電力な光スイッチ”(相変化光スイッチ)を開発するため、本研究では、「光スイッチ動作の完全な理解」と「低損失な相変化材料の提案」を目的に以下の研究項目を実施する。 (1)相変化のモデル化と光スイッチの総合的な物理シミュレーションシステムの開発 (2)光スイッチの最適なデバイス構造(デザイン)の提案 (3)第一原理計算による光吸収の小さい相変化材料の探索
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研究実績の概要 |
昨年度行ったシミュレーションから、GST層の過熱が不均一であるため、急冷中に再結晶化が顕著に発生し、光スイッチの消光比性能が劣化することが分かった。不均一加熱の原因を調べるため、GST加熱時の電流・電位分布を解析したところ、GSTの乗っていないITO(ヒーター層)領域の相対的な電気抵抗が大きくなり、その部分で発生するジュール熱が大きくなることが不均一加熱の原因であることが分かった。この結果をもとに、GST内の温度差を小さくするための検討を行い、「GST膜の乗っていないITO領域の膜厚を2倍にしたモデル構造」を提案した。このモデル構造のシミュレーションでは、GST内の温度差が約半分になり、冷却後の再結晶化が大きく減少する結果を得た。 波長1550nm付近の光吸収が非常に小さく、高速に相変化(変態)するMnTeは、光スイッチ用の有望な相変化材料であり、その物性と相変化メカニズムを明らかにすることを目的にMnTeの第一原理計算を進めた。αとβの2つのMnTe結晶相を対象に、計算手法(近似)としてGGA-UとHSE06を用い、構造最適化、状態密度分布(DOS)、エネルギーバンド図、光学誘電率の計算を行った。GGA-U近似を用いた場合、バンドギャップが実験値より30%程度小さくなったが、HSE06近似を用いた場合、バンドギャップは実験値とほぼ同じ値になった。 研究分担者は、様々な物性評価のためにMnTe薄膜の作成を行った。スパッタによって作成した直後のβ相試料は平滑で均一な膜となるが、α相形成のためにアニールすると、数10nmサイズのすき間が分布する膜となった。2つの層の密度が大きく異なり、βからαに相変化すると体積が大きく減少するためと考えられる。β相薄膜のエリプソメータ測定から得た屈折率は、第一原理計算で求めた結果と特徴が良く合っていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リアルなGST相変化を再現可能な「光スイッチの総合的なシミュレーションシステム」はほぼ完成した。試作デバイスをモデルとしたシミュレーションを実施し、不均一加熱によってアモルファス化過程において顕著な再結晶化が生じるという問題点を見つけ、その原因を明らかにすることが出来た。さらに、不均一加熱を抑制するための新しいデバイス構造の提案を行い、シミュレーションによって、光スイッチの消光比性能の劣化が抑制されることが確認できた。これによって、研究計画の最適デバイス構造の提案が概ね達成できたことになる。 光吸収の小さい相変化材料の探索に関しては、有望な相変化材料であるMnTeの第一原理計算を進め、2つの相(α相とβ相)に関する電子状態密度、エネルギーバンド図、光学誘電率の計算結果を得た。これらの結果は、MnTeの物性の理解、例えば光スイッチで利用する波長1550nmでの光吸収が小さい理由の解明につながる。また、α-β間の相変化(変態)のメカニズムの理解にとっても重要な知見となる。
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今後の研究の推進方策 |
相変化光スイッチの最適なデバイス構造の探索のため、Si導波路、ITOヒーター層、GST層などの配置を変えたシミュレーションを実施する。その際、GST層内の温度分布(むら)に注目し、光スイッチのoff動作における「速やかな結晶化」とon動作における「アモルファス化過程での再結晶化の抑制」が両立するモデル構造の提案を行う。 光スイッチのための相変化材料として、光吸収が非常に小さいMnTeに関する第一原理計算を進める。実験データ(光学屈折率の測定データなど)との比較を行いながら、これまでの計算結果の解析・検討を行う。また、相変化(変態)の反応経路計算を行い、相変化(変態)のメカニズムについて検討する。これまでの実験的研究から、MnTe薄膜のα相-β相間の相変化(変態)には応力が大きく関わっていることが示唆されている。そのため、特に結晶かかる応力・ひずみについての観点から反応経路計算とその解析を実施する。
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