研究課題/領域番号 |
20K05414
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大槻 幸義 東北大学, 理学研究科, 准教授 (40203848)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 量子最適制御 / 量子ビット / スピン / デコヒーレンス / レーザーパルス / コヒーレント制御 / 機械学習 / 量子最適化 / 強誘電体 / 強磁性体 |
研究開始時の研究の概要 |
超高速・超低エネルギーのメモリや量子技術の開発を目指し,強秩序物質を用いた光パルスによるコヒーレントな超高速スイッチング制御が注目されている。本研究では,応募者が開発してきた量子最適制御シミュレーションを用い「強秩序物質においてどの程度のコヒーレント制御が可能か?」に対し制御機構も含めて答える。着目するのはペロブスカイト型酸化物の強誘電体の分極反転,強磁性体の磁化反転である。これらのコヒーレント制御に有効な光パルスを数値的にフルに最適化する。相対効果に関しては,Dirac方程式の拘束条件下,およびFW変換による任意の展開次数で単調収束する最適化アルゴリズム群を新たに開発する。
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研究実績の概要 |
非共鳴レーザーパルスを使った操作は,物質に吸収されるエネルギーを必要最小限に抑えることができるので,強秩序系のような凝縮相では有力な量子制御法である。構造変化を誘起するモードに関して,昨年度,非共鳴レーザーパルスが非調和性による振動波束の広がり(位相緩和)を高確率で抑制できることを報告した。非共鳴レーザーパルスは包絡線関数を通してのみ物質と相互作用するため,物質の波動関数の位相の制御は限定的であると考えられていたが,本研究は従来の予測を超えた制御の可能性を示唆している。そこで,2022年度は非共鳴レーザーパルスを使った振動モードの量子制御の可能性に関して,最適制御法とヨウ素分子モデル系を使っ徹底的に明らかにすることを目指した。まず,2通りの照射タイミングからなるパルス列により,エネルギー分解に必要な時間よりも短い時間で高確率で選択的分布制御が達成できることを明らかにした。波束整形制御(分布と相対位相の同時制御)においては,パルス照射タイミングと自由時間発展による位相変化との組み合わせを最適解として導けて。波束の位相緩和の抑制の一般化に関しては,波束の初期相対位相のズレがそれほど大きくない場合,ほぼ100%の達成度で位相緩和が抑制できることを数値的およびモデル解析式で明らかにした。現在,論文を作成中である。 強磁性体のコヒーレントなスピン反転制御に関しては,「反転できなかった」という最新の実験報告に対して最適制御法に基づき解析・拡張を試みた。スピンダイナミクスを精緻に測定できることから,タイヤモンド窒素空孔(NV)中心を想定しデコヒーレンスの大きさを系統的に変えながらシミュレーションを行った。その結果,コヒーレントなスピン反転が難しくなる原因を,デコヒーレンスに伴う系の純粋度の減少と解明できた(成果を論文に発表した)。新規に,エネルギー指定の最適化の開発にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
構造変化を誘起する振動モードに関しては,非共鳴パルスを用いた波束の制御法の基本的な機構ををほぼ明らかにできたと考えている。すなわち,選択的分布反転,波束整形(分布と相対位相の同時制御),位相緩和の抑制(分布は変えずに相対位相だけを制御)である。制御パルスはいずれもパルス列であり,制御目的に応じてパルス間隔を調整することで,振動波束の相対位相の変化と組み合わせ,量子干渉を誘起しそれにより目的を達成していることを明らかにした。この機構は共鳴パルスを用いる量子制御の機構とはおおきく異なる。共鳴パルスを用いる場合,パルス自身の位相を波動関数に直接書き込む制御機構が主である。一方,非共鳴パルスの場合,波束を構成する固有状態間の量子干渉を制御することで,固有状態間に新たな相対位相を生成し目的を達成する。現在,この新たな制御機構を応用上の指針として使える形にまとめ論文にまとめてる。2023年度の早い時期に発表する予定である。 デコヒーレンスが大きな環境下でのスピン反転制御には大きな制限があることを明らかにした(2023年度に論文として成果報告した)。この制限は系の純粋度を使うことで定量的に評価できること,また高強度の外場を使っても飽和値があること示している。以上の結果は最新の実験報告とも合致している。一方,本シミュレーションを通して,新たにエネルギー指定の量子最適化法を提案できた。これは極めて一般的な量子最適制御の性質であり,外場エネルギーによるペナルティを評価する重みパラメータと制御達成度および目的汎関数の値と一対一に対応することを示している。従来,外場エネルギーを拘束条件として取り入れる試みは提案されているものの,収束保証の解法アルゴリズムは存在せず応用例は限定的であった。本研究で開発した新たなアルゴリズムが今後,様々な量子最適化に応用されると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度までの成果から,研究課題はほぼ遂行できた。しかし,コロナ感染症対策のためいくつかの学会・研究会は中止または延期となり成果発表の機会が失われた。2023年度は延長を認められた予算を使い,研究成果を広く発表していく予定である。発表においては,特に実験研究者との討論を通して成果の波及を期待している。加えて,現在作成中の論文については,早急に成果をとりまとめ2023年度のできるだけ早い時期に発表する。
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