研究課題/領域番号 |
20K05479
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分33010:構造有機化学および物理有機化学関連
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
渡邊 総一郎 東邦大学, 理学部, 教授 (10287550)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | ヘリセン / 多環芳香族化合物 / マクロサイクル / キラリティー |
研究開始時の研究の概要 |
ベンゼンは芳香族化合物の代表的存在で、高等学校や大学の教科書に平面分子であると明記されている。しかし、実際の分子では、置換基や分子全体の構造的要因により非平面になる例が知られている。 芳香族化合物の潜在能力を余すことなく活用するためには、芳香族性の理解を深化、拡大させていく必要があるが、非平面のベンゼン環を作り出す技術開発は発展途上の段階にある。本研究では、歪んだ非平面のベンゼン環をいかに合成するかという技術開発を行い、合成した化合物の構造と化学反応性や物性との関係を明らかにすることを目的としている。
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研究実績の概要 |
アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体の各エナンチオマーを、キラルカラムを用いたHPLCにより単離した。そのうちの一方のエナンチオマーについて得られた単結晶を用いて、X線結晶構造解析を行なった。その結果から決定されたエナンチオマーの立体化学は、CD スペクトルと量子化学計算の結果をもとにして推定した立体化学と同じであった。ヘリセン構造を有する化合物のらせんの立体化学は、CD スペクトルと量子化学計算の結果のみに基づいて報告されることがほとんどである。今回の成果は、これがX線結晶構造解析の結果と一致することを実験的に示したという点で意義がある。 アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体の反応性について検討する目的で、アルキン部分をジエノフィルとするDiels-Alder反応を試みた。高温で2箇所のアルキン部分が共に反応した付加体が得られ、特定の立体化学を持つ生成物が単離できた。NMRスペクトルの測定結果や、可能な立体化学をもつ付加体の量子化学計算結果を用いて、単離された生成物の配座を見極める検討を行なっている。 Diels-Alder付加体の溶解度が非常に低いため、13C NMRの測定には、クライオプローブを搭載する機器の使用を検討している。このような低い溶解性による取り扱いの困難さを軽減するために、本年度は合成の初期段階からアルキル基を導入して溶解度を向上させた誘導体を合成する経路の検討を行なった。こちらは、適切な合成経路の検討を続けている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍において、研究時間や研究人員が十分に確保できなかったことが、現在まで影響を及ぼしている。特に、光反応の実施にあたっては、反応時間が長く、また安全性の観点から複数人が反応装置を継続的に管理しなければならないため、影響が大きかった。また、光反応は希釈条件で行う必要があり、 反応のスケールアップが難しいため、生成物の量の確保が難しい。これは、あらかじめ予想された状況であったが、コロナ禍の影響と複合的に作用した。光反応を用いない合成経路の検討も重要と考えている。縮合多環芳香族化合物では溶解度の問題が常につきまとうが、ここでも目的化合物合成の際や、生成物の構造決定の際に困難さをもたらした。やむなく置換基を導入した化合物を再設計しなければならず、合成経路の再検討も必要となり、時間を要する結果となった。本年度はその検討にも着手したが、合成経路の確立にはさらに時間を要する見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体については、単一エナンチオマーの結晶構造解析の結果と、、CDスペクトルの 測定と量子化学計算での予想スペクトルとの比較を行い、計算結果の妥当性を精査する。また、Diels-Alder付加体の配座も含めた構造を確定する。これらを明らかにした上で、アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体に関する研究を取りまとめ、論文として発表する予定である。 今回の課題研究の内容から発展的に展開する方向性として、ヘリセンを構造ユニットとするキラルなカゴ型分子の合成と、そのホストーゲスト化学への展開を検討したい。私たちはすでに、トリプル[5]ヘリセンを構造ユニットとするカゴ型分子の合成を報告している(ChemistryOpen 7, 278 -281 , 2018)が、その内部空間は非常に狭く、ホストーゲスト化学には活用できなかった。本課題研究で、ヘリセンとスペーサーを組み合わせる合成方法を確立したため、これをより大きなカゴ型分子合成のために活用したいと考えている。
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