研究課題/領域番号 |
20K05513
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分33020:有機合成化学関連
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
永野 高志 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 講師 (80500587)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | ハロゲン / 酸化反応 / 酸化カップリング反応 / 酸化カップリング / 脱水素型カップリング |
研究開始時の研究の概要 |
近年,地球環境に優しく将来にわたって持続可能な化学反応の開発が強く求められている.このような時代の要請を背景に,我々はこれまでに,資源として地球上に豊富に存在する元素を触媒とし,かつ有害な副生成物を極力排出しない有機合成反応を目指して開発を行ってきた.今回の研究では,我々が過去10年ほど継続してきた臭素やヨウ素を触媒とする有機化合物の合成法開発の知見をもとに,環境に配慮した様々な酸化的な有機合成反応を世に提供することを目的としている.酸素や空気を酸化剤として利用することにより,副生成物が原理的に水のみとなるクリーンな酸化反応の開発も目指す.
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研究実績の概要 |
今年度の成果の概要は以下である. (1)昨年度までに報告している通り,ヨウ素と塩基を触媒量用いる,アルデヒドとアルコールの酸化的カップリング反応を新たに見出しており,1-プロパノールやメタノールを用いてアルデヒドから対応するエステルを高収率で得ることに成功している.そこで,よりシンプルな反応系の確立を目指し,ヨウ素単体ではなく,テトラブチルアンモニウムヨージドを触媒とする酸化的エステル化について検討した.様々な芳香族アルデヒドを基質とし,触媒量のテトラブチルアンモニウムヨージド(TBAI)存在下,メタノール中,t-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)の1,2-ジクロロエタン溶液を酸化剤として作用させることにより,塩基を添加しなくても対応するエステルが高収率で得られることを見出した. (2)上記の,アルデヒドを用いる酸化的エステル化の成功を受け,2種類のアルコール基質からの酸化的交差エステル化反応に今回初めて挑戦した.種々のベンジルアルコール誘導体とメタノールを,TBAI-TBHP触媒系で反応させることにより目的とする交差エステル化生成物が得られることを見出した.今のところ最高収率はp-ニトロベンジルアルコールを用いた場合の80%である. (3)ヨウ素単体を触媒として用い,1,2-ベンゼンジメタノールからフタリドへの分子内酸化カップリング反応が高収率(最高87% 収率)で進行することを報告しているが,今年度は上記(1)(2)で述べたTBAIを触媒とする触媒系を検討した.この反応ではヨウ素単体を用いた場合よりも収率は低く現在のところ70%前後のフタリド収率となっている. (4)上記(3)の反応生成物を精査した結果,酸化剤として用いていた TBHP の溶媒である 1,2-ジクロロエタンが反応に関与し,分子内にクロロエチル基が導入される副反応が進行していることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続き,今年度も新型コロナウイルスによる制限が多く,研究協力者である学生たちの感染や濃厚接触者としての自宅待機等が研究遂行にも大きく影響した.様々な制約のある中で新しい知見が少しずつ得られてきてはいるものの,炭素―炭素結合形成型酸化カップリングの開発が進んでおらず,研究期間の延長も申請したため進捗状況は「やや遅れている」とした.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見を基に,今後は以下の点について重点的に検討を行っていく. (1)アルデヒドの酸化的エステル化がヨウ素触媒によって上手く進行し,アルコールとして第一級から第三級アルコールまで使用可能であることがこれまでに明らかになっているので,今後TBAI触媒系についても順次,アルデヒド側の基質適用範囲の詳細や,官能基耐性の詳細を明らかにしていく. (2)ジオールからラクトンへの酸化的変換において,収率が低くなる原因を調査する過程で,酸化剤として用いていた TBHP の溶媒である 1,2-ジクロロエタンが反応に関与し,分子内にクロロエチル基が導入される副反応が進行していることが明らかとなっている.各種の実験を行った結果,TBAIを用いた場合,ヨウ化物イオンが触媒として働きカルボン酸塩と 1,2-ジクロロエタンの間で求核置換反応が起こったのではないかという結論に到達した.そもそも市販のTBHP水溶液ではなく,TBHPの1,2-ジクロロエタン溶液を用いていた理由は,反応系中に存在する水の量を極力減らし,アルデヒドからカルボン酸への望ましくない酸化経路を抑制するためであったが,全く予期していなかった副反応を見出したことにより今後の研究にかなりの広がりが期待できる.TBHPの溶媒を別の有機溶媒に変えて検討するのはもちろんであるが,副反応自体の合成的有用性についても検討していく予定である. (3)δ-ケト酸のオキシラクトン化が酸素を酸化剤として進行することもすでに見出しているので基質適用範囲の調査を急ぐとともに,炭素―炭素結合形成型の脱水素カップリング反応について,基質の合成や反応条件検討などのデータ収集を行う.
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