研究課題/領域番号 |
20K05731
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37020:生物分子化学関連
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
佐々木 雅人 東北医科薬科大学, 薬学部, 准教授 (30396527)
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研究分担者 |
山本 一男 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (70255123)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | がん代謝 / de novo ヌクレオチド合成 / ユビキチン化 / ユビキチン修飾 / 活性酸素種 / エピジェネティクス / 翻訳後修飾 |
研究開始時の研究の概要 |
葉酸代謝は核酸合成やエピジェネティック制御など、多くの反応に関与する。葉酸代謝系の酵素群の一つであるALDH1L1およびALDH1L2は、多くの腫瘍で発現が減少しており、これらががん抑制遺伝子として機能することが予想される。本研究では、ALDH1L1/2タンパク質の活性と安定化制御機構解析、ALDH1L1/2発現による代謝変化や細胞応答変化解析、がん細胞移植試験やALDH1L1/2欠損マウスの作製・解析を通じて、これら遺伝子の発がん・がん進展への関与、生理機能の解明を目指す。本研究の成果により、新たながん治療戦略の創生や、遺伝子発現レベルの違いによるがんの予後予測等への応用が期待される。
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研究実績の概要 |
テトラヒドロ葉酸(THF)代謝は、核酸の合成やDNA・タンパク質のメチル化(エピジェネティック制御)に関与することから、抗がん剤の標的となっている。THF代謝系の酵素の一つであるALDH1L1、および、ALDH1L2による反応系が、近年、主要なNADPHの供給源であると判明し、活性酸素種(ROS)の制御の観点からも着目されている。ALDH1L1/2発現は多くの腫瘍組織・細胞株で減弱しており、これらががん抑制遺伝子である可能性を見出したが、その詳細なメカニズムや意義については不明な点が多い。従って、ALDH1L1/2発現・活性変動が、(1) THF代謝を含むグローバルな細胞内代謝、中でも、核酸合成やエピジェネティック制御異常をもたらすのか、それとも、(2) NADPH・ROS産生・制御異常をもたらすのかを明らかにすることを目的とする。また、(3) ALDH1L1/2の制御機構を解明することで、発がん・腫瘍進展を制御しえるか否かを明らかにし、新たな抗がん治療薬の開発へ応用する事を目的とする。 当該年度では、ALDH1L1安定発現株における解析を実施し、ALDH1L1発現によりヌクレオチド合成中間体AICARの蓄積とSerの減弱が引き起こされることを見出した。AICARは内因性の生理活性物質としての作用も知られており、AICARのヌクレオシド体であるAICArの処理は、AMP依存性プロテインキナーゼの活性化や細胞周期停止を引き起こす。ALDH1L1発現細胞とコントロールの細胞を比較した場合、AICArのこれらに対する影響には差が見られなかったが、ALDH1L1発現細胞ではミトコンドリアの活性が高く維持されていることを見出した。さらに、AICARと類似構造をするAMPアナログに対する感受性の違いを見出し、論文としてまとめ、現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請当初遺伝子改変マウスの作製を予定していたが、他の研究グループから欠損マウスの報告がなされてしまったため、現状、遺伝子改変マウス作製は計画を見直している。しかしながら、培養細胞系を使ったメタボロミクス解析では、ALDH1L1の機能について一端を明らかにできたと考えている。さらに、ALDH1L1発現レベルに応じたAMPアナログに対する感受性の違いを見出したことは新たな発見であり、肝細胞がんへの薬物治療・治療法策に対して新たな可能性を示すことができた。 詳細なALDH1L1、およびALDH1L2の制御機構の解析については、難航している部分があるが、Tet-onシステムを用いた遺伝子発現系の構築により、ALDH1L1、およびALDH1L2のタンパク質安定性についてこれまでの報告とは異なる知見を得ている。またこれまでの解析結果を踏まえ、ALDH1L1発現がプリンヌクレオチド合成にもたらす寄与について新たな知見を得るために、蛍光タンパク質融合遺伝子によるライブセルイメージングの解析系を構築している。本研究は、申請当初予定していなかった研究だが、解析に必要な分子ツールや研究設備は整っており、比較的早期に解析に着手できると予想している。
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今後の研究の推進方策 |
ALDH1L1発現は、THF代謝にリンクしたプリンヌクレオチド合成中間体AICARの蓄積とSerの減弱を引き起こすこと、またミトコンドリアの活性に影響を及ぼし、AICARおよびAICARの構造類似体であるAMPアナログに対して耐性を示す事が明らかとなった。このことは、ALDH1L1発現が消失・減弱したがん細胞において、AMPアナログが有効な治療薬となる可能性を示している。現在、AMPアナログによる細胞への影響評価や、プリンヌクレオチド合成への影響等を解析している。また、ALDH1L1発現による代謝変化と遺伝子発現の関係性を明らかにする目的で、次世代シークエンサーを用いた遺伝子発現解析を進めている。 ALDH1L1発現制御は転写レベルのみならずユビキチン化など翻訳後修飾でも行われる事が報告されている。ALDH1L1タンパク質では、ユビキチン修飾と推定される高分子量体が、ウェスタンブロットで観察されるが、野生型タンパク質と比較して、活性中心のアミノ酸を置換した変異タンパク質ではその発現量が低いことを見出している。さらに、特定の細胞刺激により、顕著にユビキチン化が亢進することを見出している。現在、ALDH1L2も含めて、ユビキチン化部位の特定や、E3リガーゼの特定等、検討を加えている。
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