研究課題/領域番号 |
20K05786
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川本 純 京都大学, 化学研究所, 准教授 (90511238)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 細胞外膜小胞 / capsular polysaccharide / 糖転移酵素 / Shewanella / 細胞細胞外膜小胞 / 外膜小胞 / タンパク質輸送 / 表層多糖 / 莢膜多糖 / 異種タンパク質生産 / 表層糖鎖 / 小胞表層工学 / 低温菌 |
研究開始時の研究の概要 |
本申請課題では、細菌の外膜小胞生産機構の解明と、外膜小胞を基盤とした機能性ナノ材料の創製を目指す。申請者らが単離したグラム陰性細菌 Shewanella vesiculosa HM13 が生産する直径約 50 nm の外膜小胞の表層に任意の酵素もしくは金属ナノ粒子を呈示することで、近接効果を利用した高い触媒活性を付与した新奇のナノ構造体を合成する。
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研究実績の概要 |
細菌が細胞外に放出する細胞外膜小胞(MVs)は、多様な生体分子を輸送することで、宿主への感染やバイオフィルム形成といった細菌の生存戦略に重要な生理機能を担う。一方で、MVs は、これらをプラットフォームとするワクチンやナノリアクターへの応用が期待されている。アジの腸管より採取されたグラム陰性細菌 Shewanella vesiculosa HM13 は、類縁の細菌種に比べて MV 生産能に優れている。また、本菌の MVには、粒子の凝集性を抑制する新規タンパク質 P49 が主要な積荷タンパク質として輸送されていることから、細菌による MV 生産や MVへの選択的な積荷輸送の理解に重要なモデル細菌といえる。本研究では、本菌の MV 生産能が低下した自然変異株(Spontaneous mutants)の2株のゲノム解析から糖転移酵素のホモログ遺伝子への点変異を見出した。本遺伝子は、他に4 種の糖転移酵素ホモログからなる遺伝子クラスターに存在した。それぞれの遺伝子破壊株を作製した結果、本菌の細胞表層を覆う莢膜多糖(CPS)が顕著に減少していたことから、本遺伝子群は本菌の CPS 合成を担う糖転移酵素であることが示唆された。また、積荷タンパク質 P49 の局在への影響を調査した結果、野生株において本タンパク質は細胞と MV 画分に存在するが、本糖転移酵素遺伝子の破壊株においては、細胞画分および MV 画分から P49 は消失し、MVs を除去した上清画分に存在した。以上の結果は、本菌の CPS は MV 生産に関与しているとともに、P49 のMV 表層への移行を担っていることがあきらかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グラム陰性細菌 Shewanella vesiculosa HM13は、約80nm に均一化された細胞外膜小胞 (MVs)を高生産する。さらに、本菌の MVs には、ほぼ単一の積荷タンパク質として P49 が含まれている。昨年度、本研究において、P49 は EMV 表層に存在する MV 表層タンパク質であり、MVs の粒子間の凝集を抑制する機能を有することがわかった。また、本菌の MVs は、アミノ糖に富む新規の莢膜多糖 CPS で覆われていることがわかっている。P49 は、この CPS と相互作用することで MVs の表層に結合していることが示唆されている。本実験では、新たな MV 生産因子として上記 CPS の合成に関与する糖転移酵素ホモログ遺伝子を見出した。 S. vesiculosa HM13 の自然変異株のうち、MV 生産能が低下した二株について全ゲノムを解析し、点変異導入部位を同定した結果、糖転移酵素のホモログ遺伝子への点変異が、これらの2株に共通していることがあきらかとなった。本遺伝子は、4種の糖転移酵素ホモログ遺伝子からなる遺伝子クラスターに存在した。各糖転移酵素ホモログ遺伝子を個別に破壊した結果、いずれの遺伝子破壊株も野生株の 10% 程度まで MV 生産性が低下していた。糖転移酵素ホモログ遺伝子の破壊株の細胞画分の CPS を解析した結果、本遺伝子の破壊は細胞画分の CPS 量を顕著に低下させることがわかった。以上の結果は、本実験から見出された糖転移酵素遺伝子クラスターは MV への積荷輸送の足場となる CPS の合成に関わるとともに、本菌の CPS は MV 生産にも関連していることがあきらかとなった。以上のことから、本研究から本菌の MV 生産の分子基盤に CPS が関与していることがわかり、本研究は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、MV 高生産性細菌 Shewanella vesiculosa HM13 をモデルに、本菌の自然変異により MV 生産性が低下した株のゲノム解析から、本菌の莢膜多糖(CPS)合成に関与する糖転移酵素ホモログを見いだした。本遺伝子は、他の糖転移酵素ホモログ遺伝子とともに遺伝子クラスターを形成していた。これらの糖転移酵素はいずれも本菌の CPS 合成を担うことがわかった。さらに、これらの糖転移酵素ホモログ遺伝子の欠損による CPS の消失は、本菌の MV 生産能を著しく低下させることがわかった。これまでに、細菌による MV 生産は外膜リポタンパク質や疎水性のシグナル伝達物質(キノンシグナル, PQS)の蓄積による外膜のBlebbing & Pinching-off 経路と、SOS シグナルによって誘導される溶菌を伴うMV 形成(Explusive-cell lysis)経路が知られている。本菌は、外膜の Blebbing & Pinching-off により MV を高生産していると考えられるが、細胞の最外層を覆う CPS が如何にして本菌の MV 生産経路に関与しているかについては、一切報告例がない。今後の方策としては、本菌より見いだされたユニークな MV 生産経路、すなわち CPS が関与する MV 生産の分子基盤の解明に取り組む。CPS によりタンパク質量が変動する膜タンパク質や、CPS と相互作用するタンパク質の探索を試みる。また、CPS 合成に関連することが予想される遺伝子群は、本菌の MV の主要な積荷タンパク質 P49 をコードする遺伝子を含む遺伝子クラスターに多数存在する。これらの遺伝子破壊株について、同様に MV 生産への影響を解析する。以上の実験と通して、CPS と MV 生産との関連を明らかにするとともに、その分子基盤の詳細を解明する。
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