研究課題
基盤研究(C)
中枢神経系において,興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸はシナプスに放出されて受容体を活性化した後,神経シナプス前細胞やグリア細胞の一種のアストロサイトに回収されてシナプス伝達が終結する.神経細胞をとりまく細胞外マトリクスであるペリニューロナルネットの骨格を形成するヒアルロン酸の合成はグルタミン酸の回収を支える.ペリニューロナルネットやグルタミン酸トランスポーターの発現・局在・活性を制御する神経細胞―アストロサイト相互作用にかかわる分子を明らかにし,グルタミン酸回収機構を調節して正常な興奮性伝達を維持する仕組みを解明する.
神経細胞は培養開始後4-5日で神経突起の伸長を始めるが、アストロサイトの分岐形成はこれとほぼ同時に開始する。分岐形成の初期段階から互いを避ける性質を持ち、アストロサイト同士が重ならず排他的な領域を形成しながら空間を埋めていく、タイリング現象に繋がっている。そこで、CRISPR-Cas9による遺伝子破壊の手法でアストロサイトの成熟に関わる遺伝子のスクリーニングを実施し、三十余の遺伝子を選定した。これらの遺伝子間の相互作用を調べるため、複数の遺伝子の同時破壊が可能かについて、アストロサイトに発現するグルタミン酸トランスポーターを遺伝子破壊の標的として検討した。アストロサイトの主要なグルタミン酸トランスポーターはGLASTとGLT1であり、これに加えて同じSLC1ファミリーに属する中性アミノ酸トランスポーターであるASCT1も発現する。そこで、三種の遺伝子を破壊するためのガイドRNAをそれぞれ2種類ずつ設計し、HA-Cas9を発現するアデノ随伴ウイルスに組み込んだ。これを神経細胞とアストロサイトの混合培養に添加してアストロサイトに感染させて遺伝子破壊を行い、三種のトランスポーターの抗体およびHAタグに対する抗体で免疫蛍光染色を行い、HA抗体陽性領域におけるトランスポーターの発現量を蛍光シグナル強度に基づいて定量解析した。遺伝子破壊のためのアデノ随伴ウイルスの感染によるトランスポーター発現量の有意な減少が認められたのに加えて、2種類、3種類のトランスポーターを破壊するアデノ随伴ウイルスを同時に添加することで複数のトランスポーターの発現を一つのアストロサイトで同時に抑えることができることが確認できた。しかし、アストロサイトの分枝形成や、分枝同士が互いを避けるタイリング現象に対しては、グルタミン酸トランスポーター遺伝子破壊の影響はみられなかった。
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