研究課題/領域番号 |
20K05971
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39010:遺伝育種科学関連
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
木藤 新一郎 名古屋市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (60271847)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 低温耐性 / オオムギ / 根 / RNAシャペロン / プラスミドの構築 / 形質転換植物の作成 / 低温順化 / 大麦 |
研究開始時の研究の概要 |
麦類が持つ低温順化の知見は、外気に曝される葉に限定的で根についてはほとんどない。私たちは、大麦の根で冬季に発現する遺伝子(CISP)を発見した。CISP は低温に強い麦類が持つ遺伝子で、その翻訳産物がRNAシャペロンである可能性を示唆する結果を得ている。そこで本研究では、CISP を過剰発現するイネとシロイヌナズナの形質転換植物を作成し、CISPの発現と根の低温順化との相関を調べる。また、生化学的な解析でCISPタンパク質の機能解明に挑む。
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研究実績の概要 |
オオムギは優れた低温耐性を有し、冬季に雪に埋もれても地上部の葉が黄化して枯れることはない。したがって、オオムギの根は過酷な低温環境でも恒常性を維持し、葉に水分や養分を供給し続けていると推察できる。本研究では、植物の根が低温下でも恒常性を維持する機構にオオムギで単離したCISP遺伝子が重要な役割を担っているとの仮説を立て、その検証に取り組んでいる。 そして、これまでにCISP遺伝子のホモログが低温耐性を持つイネ科イチゴツナギ亜科の植物(ムギ類など)にしか存在しないことや、それら遺伝子がオオムギやミナトカモジグサのゲノムで重複していることを確認している。また、これまでに単離して解析を行った遺伝子の全てが低温に依存して発現応答することや、その発現部位が根に特異的であることも突き止めている。さらに、昨年度からはタンパク質レベルの解析に着手し、低温下で転写されたCSIP mRNAからCISPタンパク質が根で合成され蓄積していることも確認できている。このような事実は、CISP 遺伝子及びそのホモログがイネ科植物の根が低温下で代謝活動を維持するのに重要な役割を担っていることを示唆すると考えている。また、大腸菌で人工合成したCISPタンパク質がmRNAsと強く結合することが確認できており、仮説「CISPは、細胞内にmRNAsが低温下で分子内に二次構造を形成して翻訳活性が低下するのを抑制するRNAシャペロンである」を支持する結果を得ている。さらに予備的な実験ではあるが、CISPを過剰に発現する形質転換シロイヌナズナの生育が、低温環境ではコントロールの非形質転換体と比較して良いことが確認できている。 よって、残された研究期間でCISPの発現が低温環境で遅延する植物の成長にどの様な効果をもたらすのかについて解析を進めれば、低温耐性におけるCISPの重要性とその作用機構を明確にできると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)CISP遺伝子およびCISPタンパク質の解析について 私は、CISPタンパク質がRNAシャペロンであり低温に曝されたオオムギの根でmRNAsの二次構造形成を抑制する役割を担っていると考えている。この仮説が正しければ、CISP遺伝子およびCISPタンパク質は低温環境で特異的に発現すると予想できるが、これまでの解析でCISP遺伝子の発現が低温に応答することや、低温下で発現したCISPのmRNAsが常温環境で短時間に消失することが確認できている。一方、タンパク質レベルの発現解析は遅れていたが、核酸分解酵素を利用してCISPタンパク質を安定的に検出する方法が確立できたことからタンパク質の発現解析にも着手し、CISPタンパク質も低温環境に置かれたオオムギの根で特異的に合成されていることを突き止めている。 (2)CISP遺伝子を高発現する形質転換体の作成と低温耐性の評価について アグロバクテリウムを感染させたカルスでCISPを過剰に発現させると再分化が抑制されることから、CISPを過剰に発現する形質転換植物(イネとミナトカモジグサ)の作成には至っていない。よって、新たな形質転換体の作成は一端中断し、すでに作成できているシロイヌナズナのCISP過剰発現系統を用いた形質評価の解析に着手した。その結果、低温条件ではCISP過剰発現シロイヌナズナの成長速度がコントロールの非形質転換体に比べて若干早くなることが観察できている。さらに、同様の傾向がCISPを人為的に発現させた大腸菌でも確認できている。これらの結果は、CISPが低温耐性に重要な役割を担っていることを強く示唆すると考えている。しかし、実験に使用するシロイヌナズナの種子や大腸菌の状態により再現性が取れないこともあり、結果の真偽を確かめるためには継続的な解析を繰り返し実施する必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に、低温下で発現誘導されるCISPタンパク質をウエスタンブロット法で安定的に検出する方法が確立できたことから、残された研究期間でCSIPタンパク質の低温に対する発現様式と、根における局在部位を解析する計画である。発現に関しては、温度上昇に伴うCISPタンパク質の量的変化をウエスタンブロット法で調べ、オオムギを低温環境から常温に移した際に根で観察されるCISPタンパク質の減少が、1)CISP mRNAsの量的減少に起因するのか、2)CISPタンパク質の選択的な分解に起因するのか、について明らかにする。また局在に関しては、低温処理に伴い根で発現誘導されるCISPタンパク質の局在部位を組織及び細胞レベルで詳細に調べ、CISPがRNAシャペロンであることを支持する結果を得たいと考えている。加えて、CISPタンパク質の機能発現や分解にCISPタンパク質の修飾が関与する可能性についても検証し、修飾を示唆する結果が得られた場合は、その修飾様式を明らかにする予定である。さらに、CISPを過剰に発現する形質転換シロイヌナズナを使い、CISPの発現がシロイヌナズナの低温耐性に及ぼす効果を解析する計画である。ただし、低温耐性におけるCISPの役割は既知の低温馴化の仕組み(膜の不飽和化や適合溶質の蓄積等)とは異なり翻訳活性の維持であると考えていることから、低温環境で栽培する形質転換シロイヌナズナの成長速度を非形質転換体と比較解析する計画である。また、CISPが単独でRNAシャペロンとして働くなら、大腸菌でCISPを発現させれば低温環境でも大腸菌の増殖が促進されると期待できることから、大腸菌を用いたCISPの機能解析も実施する計画である。そして、得られた研究成果を昨年度までに得られている成果と共に学術論文にまとめ、投稿する予定である。
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