研究課題/領域番号 |
20K06087
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39060:生物資源保全学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 剛 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (70532927)
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研究分担者 |
福田 知子 三重大学, 教養教育院, 特任講師(教育担当) (10508633)
村井 良徳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (30581847)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 北海道 / 東北アジア / 絶滅危惧植物 / 保全単位 / 環境適応 / 化学成分 / 染色体 / 植物園 / 極東ロシア / 遺伝資源 / 遺伝的汚染の防止 / レクトタイプ指定 / 生息域外保全 / 固有性の検証 / 国際共同保全 / 中国東北部 / 韓国 / 希少植物 / 固有性 / 遺伝的多様性 |
研究開始時の研究の概要 |
北海道の希少植物の多くは東北アジア寒冷地域に同種や同種の可能性がある近縁種をもつ.しかし,北海道と分類学的・保全遺伝学的比較をすべき千島・北方四島や朝鮮半島中北部,中露国境域は地理的・政治的アクセス困難地域であり,比較研究が制限されてきた. 本研究では,このようなアクセス困難地域の研究者と協力して現地調査を行い,希少植物の分類再検討と保全研究を行う.これにより,北海道の希少植物の固有性を検証し,国外に同種が認められれば遺伝子流動(種子・花粉の移動)や遺伝的ソース地域を明らかにする.そして,遺伝的な保全単位を決定し,北海道・東北アジアの重要集団の保全と,遺伝的多様性を守る生息域外保全を推進する.
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研究実績の概要 |
北海道から本州中部,朝鮮半島北部,中国東北部,極東ロシア・シベリアに分布するイワオウギ(マメ科)について紫外線防御や抗酸化などの機能性をもつフェノール化合物(フラボノール配糖体,キサントン配糖体)の地理的変異の有無を調べた.これらの化合物は本種の高山環境への適応に寄与している可能性が示された一方,北海道と本州中部それぞれの高山産試料を分析した結果から緯度勾配に対しては分化していないことが明らかになった(Murai & Nakamura, 2022). 北海道(大雪山系・利尻山)に産するチシマイワブキ(ユキノシタ科.環境省絶滅危惧IB類)と北アルプスに希産するタテヤマイワブキ(長野県I類,富山県II類)はシベリアから北米の周北極地域に分布するシベリアイワブキの変種である.これら日本の産地間では染色体数がそれぞれ異なり(利尻山2n=50,大雪山2n=80,北アルプス2n=99-104),とくに北アルプスの算定値は広義シベリアイワブキで最大で,3産地は細胞学的特異性から保全単位として区別された(Fukuda et al., 2022). 日本最北域の島である礼文島のレッドリスト・維管束植物リスト(佐藤ら, 2023)を作成した.これは,今後,北海道・日本と極東ロシア,中国東北部,朝鮮半島北部など近隣国との間で,共通種あるいは分類学的に同種とする見解がある近縁種の分類学的再検討や,これに基づ各国の絶滅危惧植物の固有性評価において,重要な基礎資料となる. さらに,北海道固有の絶滅危惧植物ヒダカソウ(キンポウゲ科)を例に,生息域外保全から自生地植え戻し,さらに保全教育まで,一連の保全研究・実践において植物園が中心的役割を果しえることを示した(永谷ら, 2023).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年度目の東北アジアのアクセス困難地域の国際共同調査では,ビザなし交流の専門家交流事業による国後島と択捉島調査(2022年8月)を申請していた.しかし,ロシアとウクライナに係る国際情勢のため,専門家交流事業が中止され,調査を実施できなかった.また,中国東北部の北朝鮮国境域(2022年7月)における日中共同調査を現地研究機関と協力して準備していたが,中国で新型コロナウイルス禍のための出入国制限が続いたことから,その実現もかなわなかった. 一方で,採集を予定していた植物試料は海外協力機関を通じて入手することができた.これをもとに,日本,中国,韓国,極東ロシア,台湾に広域分布する種や種複合体について,中立遺伝子座の地理的遺伝構造や細胞学的特性に基づいた保全単位の評価を行ったとともに(Fukuda et al., 2022; Kwak, Nakamura et al., 査読中; Xiang, Nakamura et al., 査読中),環境適応に関わる機能性をもつ化学成分の同種内における地理的変異の有無(Murai & Nakamura, 2022)から保全単位の評価を行う新たな試みも行った.また,絶滅系統との過去の交雑による適応遺伝子の浸透を介した種内系統・保全単位の分化について明らかにした(Chang, Nakamura et al., 査読中).さらに,国内標本庫の東北アジア・アクセス困難地域のさく葉標本のデータベース化に着手した. 本研究が目指す,東北アジア近隣国との保全ネットワーキングは,試料の相互提供,論文共同執筆により推進することができたと言える.これらの成果について,植物園における保全に関する国際シンポジウム(2023年2月)をはじめ,日本植物園協会大会(2022年5月),日本植物学会大会(2022年9月),日本植物分類学会大会(2023年3月)等で講演を行った.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題のこれまでの3年間で北海道および東北アジア近隣国から得た植物試料に基づく系統・集団遺伝解析,化学成分分析,細胞学的解析等の結果を集約し,北海道を中心に日露中韓の希少植物の固有性と保全単位について検証し取りまとめる. とくに,保全単位の認識の動向が,中立遺伝子座に基づく空間遺伝構造を根拠とする方法から,適応に関わると推察される機能遺伝子座の空間遺伝構造も考え合わせるアプローチへと展開してきた中で,適応への寄与が確かな表現型の地理的分化が保全単位の認識根拠として一層重視されるべきと考える.この考えに基づき,本研究課題で取り組みを始めた,環境適応に関わる機能性をもつ化学成分の種内多型や地理的変異の分析をさらに進め,その知見を空間遺伝構造が明らかになった対象種群に付加することを行う. そして,これらにより得られた固有性に基づく保全優先度,保全単位などの知見を机上のものにとどめないことが重要であることから,日本・東北アジア近隣国の植物園間のネットワークを活用することで,保全単位に則した生息域外保全を複数園の協力で展開する端緒をつける. 本科研課題のこれまでの3年間は新型コロナウイルス禍による海外調査中止の影響が多大であったが,本研究課題の後も,北海道と植物相の関連が強い極東ロシア,中国東北部,朝鮮半島中北部,とくにそれらのアクセス困難地域について,野生植物の基礎研究,保全研究が推進されるよう,その重要な基礎資料,DNA 試料・化学分析試料となるさく葉標本のデータベース化に引き続き取り組む.とくに研究代表者が所属する北海道大学植物園の標本庫(SAPT)が所属する極東ロシア産標本は国内有数であることから,これについて優先的に進める.
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