研究課題/領域番号 |
20K06154
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40010:森林科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
齋藤 隆実 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (30403108)
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研究分担者 |
秋山 拓也 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 准教授 (50553723)
三好 由華 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (50781598)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 細胞壁 / 弾性的性質 / 水ポテンシャル / 膨圧維持 / 圧力ー体積曲線 / 水分生理 / 引っ張り試験 / メタセコイア / 引張試験 / 圧力―体積曲線 |
研究開始時の研究の概要 |
葉は、植物体内での水分移動の原動力を生み出している。乾燥すると、葉の細胞では膨圧が低下し葉の吸水力は保たれる一方、膨圧が完全に失われると生理活性が失われる。このとき、葉の細胞の相対含水率の変化と膨圧の変化との比である体積弾性率が重要な役割を果たしている。これまで広葉樹で、体積弾性率が葉肉細胞の細胞壁の弾性的性質と強く関係していることが示されたが、葉の構造や細胞壁の構成成分が異なる針葉樹にも適用できるとは限らない。そこで本研究では、針葉樹のシュートについて体積弾性率を規定する葉内部の性質を明らかにする。期待できる成果として、植物の葉の水分生理特性において細胞壁が果たしている役割を一般化できる。
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研究実績の概要 |
葉の水分生理特性は、圧力―体積曲線(P-V曲線)という線図を基に理解されてきた。P-V曲線は、葉の相対含水率が低下していく過程での葉の水ポテンシャルの低下、および、それを構成する浸透ポテンシャルと圧ポテンシャル(膨圧)の低下を表している。中でも、相対含水率の低下に対して膨圧が低下する割合は「体積弾性率」と呼ばれ、細胞壁の弾性的性質を表していると考えられてきた。しかし、この指標が提案された1970年代から理解は進んでいない。 体積弾性率が理解しにくい理由の一つに、この指標を規定する葉の内部要因がはっきりしないことが挙げられる。研究代表者らはSaito et al. (2006)で、体積弾性率と細胞壁の弾性的性質との関係を初めて立証した。しかし、この結果は広葉樹で得たものであり、葉の構造や細胞壁の成分が異なる針葉樹にも当てはまるかどうかは明らかでない。 そこで本課題では、まず共同研究者と議論することから始めた。「水と細胞壁」というテーマについて討論を重ねることでチームビルディングを図るとともに、本課題における本質的な問題は何かを探った。議論を踏まえて2022年度には測定を実施した。 測定材料には針葉樹メタセコイアを選択した。P-V曲線を測定し、過去に測定した針葉樹のスギ、広葉樹のアラカシやコナラの結果と比較した。その結果、針葉樹の体積弾性率(7~9 MPa)は広葉樹(18~21 MPa)より顕著に小さかった。この結果は、針葉樹は広葉樹と比較して吸水力の向上には劣るが、膨圧の維持には秀でていることを示している。 さらに、引っ張り試験機を用いて葉の細胞壁の動的粘弾性を測定した。測定部位を水中で加熱冷却することで熱軟化特性を評価したところ、60℃付近で特異的に貯蔵弾性率が低下した。この結果は、葉の弾性的性質の発現に何らかの生物的要因が強く影響していることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の期間中に、想定していない障害が複数発生したことで計画の遅延を余儀なくされた。とりわけ、課題開始と同時に新型コロナ感染症が拡大したことで在宅勤務を強いられ、また参画者が実際に感染したことから実験が大きく制限された。しかし、共同研究者との話し合いに時間をかけることができた。この議論の積み重ねが、計画書で想定していなかった測定材料の選択や実験手法の発案につながった。 例えば、計画書では測定材料としてスギを想定していたが、メタセコイアが有効であることが分かってきた。このことで、植物の進化についての理解も深まるかも知れない。また、計画書では測定手法として常温で引っ張り試験を行うことを想定していたが、加熱冷却しながら試験を行うことで葉の熱軟化特性を評価できることが分かった。このことで、葉の細胞壁の弾性的性質の成立要因まで理解を深めることができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の基本路線は変更せずに、実験計画を後ろ倒しする。作業の手順を見直し、P-V曲線の測定および細胞壁の物理的性質の測定を優先し、可能であれば葉の細胞壁の化学的分析および葉の内部構造の観察を行う。とくに、昨年度までの測定から針葉樹の体積弾性率が広葉樹と比較して小さいことが分かってきた。この結果を検証するとともに、針葉樹の細胞壁の弾性的性質が広葉樹とどのように異なるのかに注目して測定を実施する。
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