研究課題/領域番号 |
20K06188
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40030:水圏生産科学関連
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
片岡 剛文 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (10533482)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 原生生物 / 二者培養 / 細菌摂食 / 増殖生理 / 細菌捕食性原生生物 / 比増殖速度 / 至適増殖温度 / 好気培養 / 日向湖 / 単離培養 / 従属栄養原生生物 / 生理生態学的試験 / 細菌摂食速度 |
研究開始時の研究の概要 |
水圏生態系では、原核生物(細菌)は溶存態有機物を炭素源として増殖し、原生生物に摂食され、原生生物は動物プランクトンに摂食される。つまり、細菌と原生生物の増殖および両者の食う食われるの関係は、生態系全体の有機物利用効率に関わるため物質循環における重要な過程である。 本研究では、原生生物の細菌摂食による有機物輸送過程を明らかにするために、まず、細菌摂食性原生生物を網羅的に単離する手法を開発する。得られた原生生物株の、増殖速度と摂食速度を計測し、環境中の細菌群集を餌とした擬似現場法の結果と比較する。これらを総合的に考察することで、微生物ループにおいて原生生物が有機物輸送に果たす役割を明らかにする。
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研究実績の概要 |
微生物ループを介した有機物輸送過程を再評価するために、環境中から細菌捕食性原生生物(BVP)と細菌を単離し、細菌捕食による原生生物への有機物輸送を定量的に再評価することが本研究の目的である。2022年度は、多種多様な細菌種と共に維持培養(共培養)されているBVP株のうち3種(Euglenida sp. HJn10BC19株、Bicosoeca sp. HJn10c2株、Bicosoecida sp. HIYC8株)について単一の細菌種を餌とする培養(二者培養)の作成を試み、得られた二者培養を用いて増殖生理実験を実施した。まず、密度勾配遠心分離法により原生生物株を選抜した後に、限界希釈法により細菌と分離した。限界希釈に使用する溶媒を滅菌した培地のみのとした対称区と、1種類の細菌株(Pseudoalteromonas sp. WB1株)を含む培地とした処理区で比較することで、HIYC8株のみが含まれる希釈段階を得た。同希釈段階の処理区中の培養液に含まれる細菌由来のDNAを分析したところ、添加したWB1株の塩基配列のみが検出され、BVP(HIYC8株)と細菌(WB1株)の二者培養を確立することに成功した。本二者培養を用いて増殖生理実験を実施したところ、二者培養では、温度15度・塩分30‰における世代時間は1.80±0.06 dayであり、共培養の場合(0.35±0.01 day)と比べて約5倍遅い結果であった。本実験により、BVPの増殖速度は同一環境に生息する細菌群集により異なることが示され、環境中での原生生物による有機物輸送速度を見積もる上で有意義な知見が得られた。一方で、HJn10BC19株とHJn10c2株は、分離処理後の生存率が低く、二者培養の確立に至らなかった。大量の細胞を用いたり細胞へのダメージが少ない手法により原生生物を分離することが必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の方針を継続し、原生生物株と細菌株をそれぞれ1種類ずつ含む二者培養系の構築を推進した。2021年度に検討した原生生物と細菌分離法(遠心分離法、濾過によるサイズ分画法、密度勾配遠心分離法)の処理手順を検討して最も効率良く分離できる手法を検討した。細菌:原生生物の細胞密度比が1以下の画分を接種源として、細菌株(Pseudoalteromonas sp. WB1株)を1種類のみ含む培地を用いて限界希釈に供したところ、細菌株を含まない対象区では原生生物(Bicosoecida sp. HIYC8株)の増殖が認められないが、実験区では増殖が認められる希釈段階を得ることに成功した。これらの培養液中のゲノムDNAを抽出し、細菌の分類指標となる16S rRNA遺伝子配列を網羅的に解析したところ、Pseudoalteromonas sp. WB1株のみの塩基配列が検出された。つまり、得られた培養はPseudoalteromonas sp. WB1株のみを餌細菌とする原生生物(HIYC8株)の培養(二者培養)を確立することに成功した。本二者培養を用いて、増殖可能な塩分濃度幅および温度幅を明らかにするとともに、それぞれの至適増殖速度を計測することができた。 当初の予定では原生生物株と細菌株をの二者培養を複数作成し、増殖生理実験と細菌摂餌実験を実施する予定であったが、二者培養を確立できた原生生物がHIYC8株のみである点に加えて二者培養における摂餌速度を計測するには至っていないので、概ね進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、これまでに確立した原生生物の単離株の18S rRNA遺伝子塩基配列を決定し新規の系統については公共データベースに登録する。また、Euglenida sp. HJn10BC19株などHIYC8株以外の原生生物の二者培養化も継続する。 2023年度は、主に原生生物の摂餌に関する定量的データを収集する。つまり、二者培養化が容易なHIYC8株について、異なる種類の細菌株との組み合わせで二者培養を作成し、HIYC8株の至適増殖条件における増殖速度を導出して餌となる細菌種の細胞サイズ等と増殖速度との関係を比較考察する。加えて、Bicosoecida sp. HIYC8株とPseudoalteromonas sp. WB1株の二者培養を用いてWB1株が十分に増殖した状態の餌粒子の捕食速度を計測する。本共培養についてWB株の細菌密度の1/10程度となるように直径が0.5マイクロメートルの蛍光ポリスチレンビーズを添加して一定時間培養する。その後、直ちに細胞を回収・固定し蛍光顕微鏡下で細胞内のビーズを計測することでビーズ捕食速度および細菌摂食速度を計測する。本実験で得られるデータを、新たな原生生物株によるWB1株の摂餌速度を比較する対象値とする。
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