研究課題/領域番号 |
20K06193
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40030:水圏生産科学関連
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
江口 充 近畿大学, 農学部, 教授 (40176764)
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研究分担者 |
谷口 亮人 近畿大学, 農学部, 講師 (10548837)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 有機物分解 / 環境酵素 / 台風 / 季節風 / 鉛直混合 / 雨水 / 溶存酸素 / 塩分 / 自浄作用 / 加水分解酵素 / 養殖漁場 / 加水分解活性 / 自浄能力 / エキソペプチダーゼ / エンドペプチダーゼ / 生態系攪乱 / 細菌叢 |
研究開始時の研究の概要 |
台風による自然攪乱は我々の生活に時として壊滅的な被害を与える一方で、生態系をリセットするという役割も持つ。試験的に実施した野外調査により申請者は、台風の通過前後で沿岸域の養殖漁場における海洋細菌の有機物分解力(細胞外酵素活性)が水柱と海底堆積物表層で2倍以上に上がることを確認した。水域の自浄能力が向上するのである。本研究では台風通過前後を狙った野外調査を行い、養殖漁場の有機物分解力が台風により活性化する現象を把握する。併せて、どの様な環境因子の変化が細胞外酵素活性を向上させるのか、そのメカニズムを室内実験で解明する。
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研究実績の概要 |
台風や季節風が養殖場水域(和歌山県田辺湾)の有機物分解力に与える影響について調べた。2020~2022年に得たデータに過去10年間に及ぶ野外調査のデータも合わせて、有機物分解力と各種水質項目との相関を解析した。有機物分解力は環境酵素の活性で評価した。測定した酵素活性はタンパク質を分解するロイシンアミノペプチダーゼ(以下LAPase)とトリプシン、糖を分解するβグルコシダーゼである。2022年度は特にLAPase活性について集中的に実験・解析を行った。 LAPase活性と水質項目の関係は、表層(水深1m)と底層(底上1mの底層水と0~1 cmの表層堆積物)で異なった。表層の同活性は水温と正の相関を示し、塩分と高い負の相関を示した。一方、底層では同活性が水温と負の相関を示し、DOと正の相関を示した。冬の田辺湾では北北西の季節風が卓越し、激しい鉛直混合を起こす。同活性の上昇の原因は2つ考えられる。一つは鉛直混合による底層へのDO供給に由来する細菌群集構造の変化であり、もう一つは堆積物の巻き上げによる有機物や金属イオン等の水柱への再加入である。 さらに表層海水のLAPase活性が塩分と強い負の相関を示す点に注目した。2022年5月13日に行った野外調査で採取した表層海水について、同日の奈良や白浜で採取した雨水、滅菌した蒸留水を用いて塩分を33 psuから27 psuに下げて室内実験を行った(添加後のpHに変化なくpH=8.0~8.2)。その結果、白浜の雨水を添加した海水では有意に同活性が上がったが、奈良の雨水や滅菌した蒸留水では逆に活性が低下した。有機物分解力を上げた白浜の雨水(pH=4.5)は奈良の雨水(pH=5.3)より酸性度が強かった。強い酸性雨ほど溶け込んでいる金属イオンの量が上がる。雨水に含まれる金属イオンが水域の有機物分解力に何か影響するのかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年・2021年は新型コロナウイルスの影響により、他県への野外調査による移動が制限された(報告者の所属する近畿大学農学部は奈良県奈良市にあり、野外調査の対象となるイケス養殖水域は和歌山県白浜町地先の田辺湾)。野外調査の実施回数が当初予定していたよりも大幅に減った点において、計画通りに進んでいるとは言えないと自己評価した。それに加えて、日本を直撃する台風が極端に減ったこともある。特に2020年は実に12年ぶりに日本の本土へ上陸した台風が皆無であった。これも全く予期していなかった事態である。自然相手の研究の難しさを改めて痛感した。研究期間の1年延長を申請した理由は、この2020年度の台風ゼロと新型コロナの影響での野外調査回数の減少が大きな理由である。 ただ、その様な状況下でも現場環境を模した室内実験は当初予定していたよりも行うことができた。特に過去のデータも合わせた解析により、現場水域の有機物分解力が各種水質項目(水温、塩分、溶存酸素、濁度、クロロフィル量、電気伝導度)と様々な相関関係を示すことを見出した。これは大きな収穫と言える。特に塩分と表層海水の有機物分解力(ロイシンアミノペプチダーゼ活性により評価)に強い負の相関があることが明らかになったのは大きな進展である。当初は雨水による単純な塩分低下が有機物分解力を向上させるのかと考えたが、採取場所の異なる雨水を比較すると雨水の種類により添加効果が異なることが判明した。より強い酸性雨が有機物分解力をより強化するという結果は興味深い。 野外調査での台風時の調査が出来なかった点と野外調査回数の減少というマイナス点を室内実験が当初予定よりも進展したというプラス点が相殺するという視点から、おおむね順調という自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナの影響で実施できなかった野外調査を行う。特に台風、季節風、降雨などに起因する金属イオン等の水柱への加入が、水域の有機物分解力へ与える影響について焦点を当てて研究を展開し、環境要因と水域の自浄作用との関係を明らかにしたい。台風については2020年のように日本本土に上陸する台風が皆無となる可能性も否定できない。台風というイベントに拘りつつも、広く強風や豪雨といった気象条件の変化に注目して調査・研究を推進する。 今までの調査・研究の結果から、台風や大雨の前後で水域の有機物分解力(環境酵素の活性で評価)に変化がおこる。つまり自然のイベントが起こる前よりも後の方が水域の有機物分解力が向上していることが期待される。この点に特に注目して、新型コロナ禍の影響で2020年・2021年に行えなかった野外調査を2023年度は確実に実施したいと考えている。 室内実験系では台風や大雨前後の現場を想定したマイクロコズム実験を中心に、特に金属イオンの加入が環境酵素(タンパク質分解酵素であるロイシンアミノペプチダーゼとトリプシン、糖類の分解酵素であるβグルコシダーゼ)に与える影響を明らかにする。生の自然海水の場合は存在する細菌群等が様々に変化する。生の自然海水にはunkownな要因が多いため、自然海水に加えて、分離した海洋細菌株(20~30株)を用いた同様の実験も実施する。分離した細菌株を用いることで実験系を単純化し、水域の有機物分解力に与える金属イオンの影響を明らかにしていく。 野外調査結果と室内実験結果を合わせて、水域の有機物分解力(浄化能力)と環境要因との関係を明らかにし、最終的にイケス養殖場水域の環境容量の推定に繋げたい。
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