研究課題
基盤研究(C)
地球表面の大気や海洋の平均温度が長期的に上昇する現象である地球温暖化は、農業や水産業に甚大な影響を及ぼすことが危惧されている。ベトナムのメコンデルタでは広範囲にわたって低地が広がり、豊富な河川水を利用してパンガシウス(ナマズの仲間)などの淡水魚が盛んに養殖されている。地球温暖化による海面の上昇によって多くの淡水養殖場で塩分濃度が上昇すると考えられ、その結果、淡水の養殖魚は高塩分ストレスと環境水温の上昇に晒されることになる。本研究では、陸水の高塩分化と水温上昇がパンガシウスの浸透圧調節機能に及ぼす影響を詳細に検討することで、地球温暖化が魚類の淡水養殖にどのような影響を与えるのかを予測する。
メコンデルタで盛んに養殖されているパンガシウスは、狭塩性の淡水魚であり、高塩分環境では生息することはできない。本研究では、水温上昇が浸透圧調節機能に及ぼす影響を詳細に検討することで、地球温暖化が魚類の養殖にどのような影響を及ぼすのか予測することを目的とした。①鰓イオン輸送体タンパク質の遺伝子発現量の変化パンガシウスを各10尾ずつ4群(塩分濃度0ppt/水温27℃(対照区)、0ppt/33℃、10ppt/27℃、10ppt/33℃)に分け5日間飼育した。飼育終了時の各群の血液浸透圧は塩分濃度の上昇に伴い有意に上昇したが、温度による影響は見られなかった。上記の4群からサンプリングした鰓で、リアルタイムPCR法によって各種イオン輸送タンパク質の遺伝子発現量を定量した。NKAの3つのアイソフォーム(α1、α2、α3)のうちNKAα1を対照区と10 ppt/27℃で比較すると、10 ppt/27℃で有意に発現量が増加した。しかし、NKAα1の発現量に対する塩分濃度と水温の交互作用は認められなかった。②下垂体ホルモンの遺伝子発現量の変化パンガシウスを0 pptと10 pptの2群に分け長期間(10か月)飼育し、下垂体における成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)の発現量を定量した。GHは海水順応ホルモンとして知られるが、10 pptで飼育した群で発現量が有意に上昇した。このことから、パンガシウスにおいてもGHが環境水の塩分濃度上昇に順応する際に、体液のイオン濃度と浸透圧を低下させる方向に働くホルモンであることが示唆された。一方でPRLは淡水順応ホルモンとして知られており、10 pptの群で有意に発現量が減少した。このことから、パンガシウスにおいてもPRLが淡水環境に順応する際に、体液のイオン濃度と浸透圧を上昇させる方向に働くホルモンであると考えられた。
すべて 2022 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Fisheries Science
巻: 88 号: 1 ページ: 149-159
10.1007/s12562-021-01562-1
40022822414
Gene
巻: 767 ページ: 145285-145285
10.1016/j.gene.2020.145285
Environmental Biology of Fishes
巻: 103 号: 2 ページ: 137-145
10.1007/s10641-019-00940-0