研究課題/領域番号 |
20K06237
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 敬典 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (40728268)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | クラミドモナス / タンパク質リン酸化酵素 / トリアシルグリセロール / プログラム細胞死 / 硫黄欠乏応答 / トリアシルグリセロール(TAG)蓄積 / 珪藻 / バイオ燃料 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞が自ら細胞死を引き起こす「プログラム細胞死(PCD)」は、多細胞生物のみならず単細胞生物でも機能している。水圏生態系を支える植物プランクトンの細胞死は、細胞の溶解に伴う栄養塩のリサイクルや、殺藻ウィルスに対する防御機構として重要な現象であると考えられるが、藻類がいかにして環境変化を感知してPCDを引き起こすのか、その分子メカニズムの詳細は不明である。本研究では、藻類のPCDの分子機構を詳細に調べ、さらにPCDの人為的制御による藻類オイル生産制御を試みる。
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研究実績の概要 |
本研究では、微細藻類のプログラム細胞死(PCD)の理解とPCDを利用した物質生産制御機構の確立を目指して研究を推進した。2023年度は下記の点について明らかにした。 1)緑藻クラミドモナスにおいて、細胞死を制御するタンパク質リン酸化酵素TAG accumulation regulator 1 (TAR1) が、窒素欠乏応答(細胞死を含む)を制御するしくみについて詳細に調べた。野生株では、窒素欠乏移行後に一回分裂して配偶子へと分化するが、tar1変異体では窒素欠乏移行後の細胞分裂が起こらず、配偶子への分化能が低下していた。RNA-seqデータの再解析により、tar1変異体では窒素欠乏移行後にサイクリン依存性キナーゼB(CDKB)の発現量が低下していた。tar1変異体におけるCDKB転写産物量の低下は、qRT-PCRによっても確認され、TAR1は窒素欠乏移行後にCDKBの発現量を維持することで、窒素欠乏移行後の細胞分裂を駆動することが示唆された。また、栄養欠乏応答制御のマスターレギュレーターとして知られるラパマイシン標的キナーゼがTAR1を制御する上流因子であることを明らかにした。 2)硫黄欠乏下で細胞死を促進する新奇コイルドコイルドメイン含有タンパク質(CCDC)を同定し、その機能解析を進めた。硫黄欠乏下でCCDC変異体 (ccdc)と、野生株の転写産物蓄積量を比較するためのRNA-seq解析を進め、ccdc変異体では硫黄欠乏移行後に細胞分裂に関与する因子、特に染色体の複製や分配に関与する因子の発現量が野生株と比較して低下していた。染色体分配の異常やDNA損傷によりPCDが起こる例は動物細胞などで知られており、クラミドモナスでも同様のシステムが働いている可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緑藻クラミドモナスのタンパク質リン酸化酵素TAR1は、窒素欠乏に応答して細胞死・白化(クロロフィルの分解)、細胞分裂、配偶子分化、脂質蓄積など多様な生理応答を制御するが、その仕組みは不明であった。本年度の研究により、TAR1がサイクリン依存性キナーゼmRNAの発現量制御を介して細胞分裂を制御することが新たに示唆され、TAR1の機能理解が進んだ。さらに、TAR1の上流制御因子としてラパマイシン標的キナーゼがあることを明らかにし、ラパマイシン標的キナーゼがTAR1を介して細胞死を制御する可能性を示唆した。光合成生物におけるラパマイシン標的キナーゼの機能は、動物や酵母のそれと比べて研究が進んでおらず、本研究により新たな知見をもたらすことができた。TAR1とは別の因子として、新奇コイルドコイルドメイン含有タンパク質(ccdc)が硫黄欠乏下で細胞死を促進することを明らかにした。CCDCの欠損により、DNA複製や染色体分配に関与する因子のmRNA量が低下していたことから、分裂異常により細胞死が誘導されることが示唆された。これらの結果を総合すると、クラミドモナスの栄養欠乏応答において、細胞死のタイミングが細胞周期の進行と関連すると考えられた。 これらの結果は、細胞死を含む栄養欠乏応答が細胞周期と密接に同期して制御されていることを示唆するものであり、研究の新たな展開につながった。
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今後の研究の推進方策 |
クラミドモナスTAR1は窒素欠乏下で細胞周期を制御することが示唆された。同様に、別の因子(CCDC)の変異体においても、硫黄欠乏下で細胞周期・染色体分配などに関与する因子の発現量が低下しており、栄養欠乏下では、細胞周期と細胞死の誘導が密接に関連していることが示唆された。我々が研究しているTAR1やCCDCのほかに、海外のグループは窒素欠乏応答に異常を示す変異株cht7を単離し、CHT7が分裂やTAGの蓄積などを総合的に制御することで、窒素欠乏下での「休止状態(G0期)」への移行と離脱を制御していることを報告した。cht7変異体は、窒素欠乏下でも細胞分裂が停止せずに進行し、細胞死を起こす。我々の結果と、CHT7の報告を総合して考えると、窒素欠乏応答は細胞周期の進行と密接に同期しており、細胞死の制御も細胞周期と関連していると考えられる。そのため、窒素欠乏応答を総合的に理解するためには、様々な窒素欠乏応答がどのようにして細胞周期と関連して制御されているかを解明する必要がある。今後は、TAR1がどのようにしてサイクリン依存性キナーゼ(CDKB)mRNA量を制御するのかという点と、tar1変異体で見られたCDKBのmRNA量の減少が、CDKBタンパク質の減少につながっているかを検証する。また、TAR1とCHT7の各変異体の表現系の比較から、TAR1がCHT7の上流因子であると推定している。CHT7はリン酸化制御を受けることから、tar1変異体にいてCHT7のリン酸化状態が変化しているかを調べる。
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