研究課題
基盤研究(C)
福島県の帰還困難区域には事故の前後に生まれた牛が今でも100 頭以上飼育されていますが,1)累積被曝量が1,000 mSv程度に達したこと,2)被曝開始後9年経過したこと,3)牛が高齢化していること,などから,今後放射線による癌や白血病が発生する可能性があります。本研究ではこれらの牛を対象にして,今後5年間にわたって健康影響調査を継続することにより,長期低線量被曝が健康に与える影響,特に癌や白血病の発生状況を解明することを目的とします。
これまで3ヶ所の農場で調査を行ってきたが,1軒の農家で牛の飼養継続が困難となったため,12頭中3頭は別農場に移動し,残り9頭は安楽殺して病理学的検査ならびに血液および筋肉の放射性セシウムの測定を行なった。筋肉中の放射性セシウム濃度は平均約17Bq/kgであり,全ての個体で食品基準である100 Bq/kgを大きく下回った。また,放射性セシウムの筋肉/血液比は17.7±4.3であり,剖検を行なったのが初夏であったため,冬季に剖検を行なった2021年度の報告(24.9±2.9)よりも高かった。病理学的検査では異常は見られなかった。定期調査は5月と12月の2回行った。空間線量率は,高線量牧場では約10μSv/h,低線量牧場では1μSv/h未満であり,前年とほとんど変わらなかった。血中放射性セシウム濃度は高線量牧場で平均54 Bq/kg,低線量牧場で約2 Bq/kgで,両牧場ともに前年の約7割に低下していた。これは体内セシウム濃度の季節変動が主な要因であると考えられる。血球数検査では高リンパ球が3頭に見られた。この3頭は数年前から高リンパ球が続いているものの,その他の項目に異常はなく,外見的にも病的な兆候は見られなかった。2021年に低線量牧場で貧血傾向であった7頭は,概ね正常範囲まで回復していた。高線量牧場は2つの牧区からなるが,12月の調査で一方の牧区の牛の多くが低BUNを示し,飼料の不足が示唆された。その他腎機能や肝機能の軽度の低下が疑われる個体が存在し,経過観察が必要と考えられた。重度の異常を呈する個体が発生した際に随時行う緊急調査は,今年度は実績がなかった。また,疾病や事故で死亡した牛もいなかった。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウィルス感染症が鎮静化してきたことから,定期調査を予定どおり春と秋の年2回行い,生化学的検査,血球数検査,塗抹検査,および放射性セシウムの測定を行ない,牛の状態を把握した。体調に異常を呈した牛が出た場合には緊急調査を行うこととしているが,昨年度はそのような事例がなかった。2020年と2021年は新型コロナウィルス感染症の影響により予定よりも調査回数が少なかったものの,現在は通常の活動ができるようになり,研究に大きな支障は生じていない。
計画どおり今年も年2回の定期調査を行うとともに,異常牛が発生した場合には緊急調査(剖検等)を行い,データを蓄積する。緊急調査についてはあらかじめ予定を立てることができないため実施できないこともあるが,可能な限り早期の異常発見と連絡を畜主にお願いし,異常牛の原因究明に努める。ただし,新型コロナウィルス感染症の蔓延により県外移動が制限された場合などは,それに従って調査の時期を移動し,あるいは回数を減らさざるを得ない場合もある。
すべて 2022 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)
Scientific Reports
巻: 12 号: 1
10.1038/s41598-022-25269-0
Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology
巻: 105 号: 3 ページ: 496-501
10.1007/s00128-020-02968-w