研究課題
基盤研究(C)
福島県の帰還困難区域には事故の前後に生まれた牛が今でも100 頭以上飼育されていますが,1)累積被曝量が1,000 mSv程度に達したこと,2)被曝開始後9年経過したこと,3)牛が高齢化していること,などから,今後放射線による癌や白血病が発生する可能性があります。本研究ではこれらの牛を対象にして,今後5年間にわたって健康影響調査を継続することにより,長期低線量被曝が健康に与える影響,特に癌や白血病の発生状況を解明することを目的とします。
2023年4月時点での牛の飼養頭数は,高線量牧場で34頭,低線量牧場で17頭であった。高線量牧場において起立不能等の異常により4月27日に2頭,5月11日に1頭の剖検を行い,うち2頭は牛伝染性リンパ腫(白血病)と診断された。残り1頭は心不全と診断されたが,この牛は18歳と高齢であったため,その影響の可能性が示唆された。定期調査は6月と12月に行い,駆虫薬の塗布ならびに望診および採血による検査(血球数,血液生化学,放射性セシウム)を行なった。血中Cs-137濃度は,除染済みの低線量牧場では6月も12月も約2Bq/kgであったが,高線量牧場では6月に55Bq/kg,12月に88Bq/kgと,明確な季節変化が認められた。血液性化学検査では,前年に引き続き軽度の肝機能低下が疑われる個体が居たものの,顕著な異常は認められなかった。血球数の検査において,両牧場ともに貧血傾向の個体および低リンパ球の個体が散見される一方で高リンパ球を呈する個体も見られたが,この傾向は以前から続いているもので,病的な異常とは考えられなかった。なお,剖検によって伝染性リンパ腫と診断された2頭については,過去の血液検査でリンパ球数その他の異常は認められていなかった。一方,前年12月の調査では高線量牧場の牛に低BUNを示す個体が多くみられ,飼料の不足が示唆されていたが,今年度の検査でBUNの異常は見られなかったことから,栄養状態は改善されたものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
5月に新型コロナウィルス感染症が5類に移行したことから,定期調査を予定どおり春と秋の年2回行い,生化学的検査,血球数検査,塗抹検査,および放射性セシウ ムの測定を行ない,牛の健康状態を把握した。体調に異常を呈した牛が出た場合には緊急調査を行うこととしているが,昨年度はそのような牛が3例あり,全て剖検して2例を牛伝染性リンパ腫(牛白血病)と確定することができた。2020年 と2021年は新型コロナウィルス感染症の影響により予定よりも調査回数が少なかったものの,2022年以降は概ね通常の活動ができるようになり,研究に大きな支障は生じて いない。
計画どおり今年も年2回の定期調査を行うとともに,異常牛が発生した場合には緊急調査(剖検等)を行い,データを蓄積する。緊急調査についてはあらかじめ 予定を立てることができないため実施できないこともあるが,可能な限り早期の異常発見と連絡を畜主にお願いし,異常牛の原因究明に努める。今年は現科研費の最終年度にあたるが,調査対象農場の牛はまだ48頭残っている。これらの牛を最後まで観察し,長期被曝の影響を評価するため,本研究テーマの継続による科研費の獲得を目指す。
すべて 2022 2020 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 12 号: 1
10.1038/s41598-022-25269-0
Bulletin of Environmental Contamination and Toxicology
巻: 105 号: 3 ページ: 496-501
10.1007/s00128-020-02968-w
https://aen.jp/index.html