研究実績の概要 |
本課題では無血清の培養及び凍結培地を用いた牛体外受精胚凍結保存法を開発することを目的に安全性が高く、耐凍性を有する魚類由来III型不凍タンパク質(AFP III)に着目した。 R2-R3年度は食肉処理場由来卵巣から血清不含体外培養(IVP)した牛胚盤胞をAFP III 0, 0.1, 0.5, 1.0, 5.0 ug/mLにて1 h前処理後、同様の濃度のAFP IIIを含有する血清不含の凍結液にて緩慢凍結を行った。凍結後、-30℃もしくは-196℃にて1週間以上保管後に融解し24時間後の胚盤胞の生存率、拡張率、脱出率を判定した。-30℃保存はいずれの濃度でも非常に低い生存率だったが、-196℃保存ではAFP III 1.0 ug/mL添加区で融解後の生存率が対照区より高い傾向を示し、拡張率、脱出率も安定した結果が得られたため、以後の試験はAFP III 1.0 ug/mL添加、 -196℃保存の胚を用いて実施した。 R4年度はIVP胚盤胞をAFP III添加(AFP区)で凍結保存し、融解24時間後の生存胚における遺伝子発現(HSPA1A, POU5F1, NANOG, CDX2, IFNT, CASPASE3)をqRT-PCRにて比較した。ストレスマーカーHSPA1Aの発現はAFP区で有意に低く、栄養外胚葉マーカーCDX2の発現はAFP区で有意に高かったが、内部細胞塊マーカーやアポトーシスマーカーに差は認められなかった。HSPA1Aの結果からAFP添加区で凍結による障害が軽減される可能性が示唆された。 R5年はAFP III 1.0 ug/mL区と対照区の凍結胚を融解後各7頭の黒毛和種に移植した。両区とも受胎個体が得られたが、有意差はないもののAFP区で対照区より高い受胎率(28.% vs 14.3%)が得られ、AFP添加凍結保存による胚の生存性及び受胎性改善の可能性が示された。
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