研究課題
基盤研究(C)
旋毛虫は、寄生した宿主筋肉細胞を自己の生存に適した細胞に変異させて寄生を続ける。この細胞変異は旋毛虫が分泌する分子量43kDaタンパク質(Ts43)によって惹起される可能性が高い。今回の研究では、Ts43を筋芽細胞株に投与して細胞の遺伝子動態解析を行い、かつTs43遺伝子をノックダウンさせた幼虫の感染実験によってTs43の機能を明らかにする。また、Ts43遺伝子をマウスに導入したノックインマウスを作製し、in vivoにおける筋肉細胞変異の再現を試みる。一方、Ts43の立体構造を明らかにしてその活性部位を特定し、Ts43と相互作用するタンパク質を探索し、Ts43の機能を構造生物学的に解明する。
旋毛虫が分泌する43kDaタンパク質(Ts43)は筋肉細胞変異に重要な役割を担っている。今回の研究においてTs43発現筋芽細胞株は形態上に明らかな分化促進が見られ、筋分化遺伝子の発現も高くなっていた。しかし、Ts43は筋細胞のアポトーシスおよび細胞変異関連遺伝子群に対する影響は示さなかった。また、筋細胞の分化が進むにしたがって、NF-kB活性が低くなる傾向が認められ、Ts43はNFkB活性を抑制することによって、細胞の分化を促進すると考えられた。また、Ts43は主に旋毛虫由来の分泌産物由来細胞小胞に含まれ、それらは筋細胞の分化を促進し、旋毛虫による筋肉細胞変異に重要な役割を果たすと考えられた。
旋毛虫が分泌する分子量43kDaタンパク質(Ts43)は、筋肉細胞変異に重要と考えられるタンパク質であり、最終分化細胞である筋肉細胞から未分化細胞、そしてナース細胞への分化誘導機構の解析・解明は、旋毛虫を用いた研究以外では得ることが困難で、その意義は極めて大きい。今回の研究ではそのTs43の筋肉細胞変異に関連する詳細な機構を明らかにした。一方、旋毛虫感染により形成される未分化細胞は多能性を有している。かつ、旋毛虫はすべての恒温動物に感染が可能であるため、分化誘導機構が解明され、今後筋肉細胞の変異の再現が実現できれば、容易に多くの動物種から多能性幹細胞の作出が可能である。
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