研究課題/領域番号 |
20K06499
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43010:分子生物学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐々木 和樹 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 上級研究員 (10415169)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ヒストン修飾 / 蛍光プローブ / FRET / ヒストンセロトニン化 / ヒストンクロトニル化 / YEATSドメイン / TGM2 / イメージング / エピジェネティクス |
研究開始時の研究の概要 |
エピジェネティクスと呼ばれる塩基配列によらない遺伝子の発現制御機構は、クロマチンの翻訳後修飾によって制御されている。最近、抑制性の神経伝達物質として知られているセロトニンが、細胞膜上の受容体を活性化して細胞内シグナル伝達を誘導するのみでなく、ヒストンH3の5番目のグルタミンと共有結合し、遺伝子発現制御及び細胞の分化誘導に関わっているという報告があり、セロトニンが細胞内でエピジェネティックな役割も担っている可能性を示唆した。本申請では、ヒストンセロトニン化の新規蛍光プローブの開発を行い、未分化の神経細胞からセロトニンニューロンへの分化過程を観察し、ヒストンセロトニン化の動態を明らかにする。
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研究実績の概要 |
新たなヒストン翻訳後修飾であるヒストンH3の5番目のグルタミンのセロトニン化は、神経細胞の遺伝子発現制御と分化誘導に関与していることが報告されている。しかし、その詳細についてはまだ知られていないため、ヒストンセロトニン化をリアルタイムに検出する蛍光プローブの開発を行い、神経細胞の細胞応答に伴うヒストンセロトニン化の変動を観察する。 蛍光プローブを開発するためにはセロトニン化したヒストンを認識する蛋白質が必要であるが、2021年度に蛋白質WDR5及びTAF3のPHDドメインが、トリメチル化H3K4セロトニン化H3Q5(H3K4me3Q5ser)と直接結合することを見出した。2022年度、これらの結合蛋白質を用いてFRET型蛍光プローブ候補のプラスミドを複数作製した。蛍光プローブの検証のためのセロトニン処理によってヒストンセロトニン化を起こす細胞を作製しており、この系を用いてセロトニン化によりFRET変化を起こすプローブの選別を行っている。 新規ヒストンアシル化を検出するYEATSドメインを用いた蛍光プローブの開発も並行して進めている。GAS41のYEATSドメインは、アセチル化ヒストン及びクロトニル化ヒストンと高い親和性を持つことが知られている。2021年度、GAS41のYEATSドメインを用いた蛍光プローブを作製し、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤トリコスタチンA(TSA)を用いてヒストンH3アセチル化によるFRET変化を起こすことを確認した。YEATSドメインを持つGAS41は膠芽腫及び星状細胞腫で過剰発現しており抗癌剤の分子標的として注目されており、2022年度、作製した蛍光プローブを用いて、GAS41のYEATSドメインを標的とした新規阻害剤が細胞内で機能することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度、WDR5及びTAF3のPHDドメインがH3K4me3Q5serと直接結合することをペプチドプルダウンアッセイにより見出した。2022年度、これらの結合蛋白質をヒストンH3のN末端またはC末端にリンカーで繋ぎ、その両端に蛍光蛋白質ECFPとVenusを繋いだFRET型蛍光プローブ候補のプラスミドを作製した。 ヒストンセロトニン化を誘導するTGM2が定常的に過剰発現しているHeLaS3細胞を作製し、この細胞に蛍光プローブ候補を発現させた。WDR5を含む蛍光プローブは細胞毒性が高くプローブを発現する細胞を得ることができなかった。TAF3のPHDドメインを含むプローブは細胞毒性がみられなかったため、現在、TAF3のPHDドメインを含む蛍光プローブ候補の中からセロトニン処理でFRET変化する蛍光プローブを探している。 同時に、YEATSドメインを用いた蛍光プローブの作製も行った。2021年度、GAS41のYEATSドメインを用いた蛍光プローブの作製を行った。2022年度は、この蛍光プローブを用いて、抗癌剤の標的分子として注目されているGAS41のYEATSドメインの阻害剤が細胞内で活性を持つかどうかを調べた。スクリーニングでヒットした新規YEATSドメイン阻害剤処理後にTSAを加えてもFRETの変化が見られなかったことから、細胞内で新規阻害剤がGAS41のYEATSドメインとアセチル化ヒストンH3の結合を阻害することがわかった。またBRD4のブロモドメインを用いた蛍光プローブHistac-H3K9/K14ではTSAによる応答が新規阻害剤処理により有意に減少し、BRDTのブロモドメインを用いたHistacでは阻害剤処理でTSAによる応答を抑えることができなかったことから新規YEATSドメイン阻害剤の選択性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒストンセロトニン化を検出する蛍光プローブの作製にはTAF3のPHDドメインが適していることがわかったため、今後は各ドメインの順番の入れ替えやリンカーの長さを調節することによって蛍光プローブを最適化する。セロトニン処理するとヒストンH3K4me3Q5serが上昇する細胞は確立しているため、この細胞に蛍光プローブを発現させ、セロトニンの応答を比較することで最適な蛍光プローブを探す。 作製した蛍光プローブ内のH3Q5をアラニンに置換し、蛍光プローブの応答がセロトニン化特異的に起こっているかを確認する。 神経細胞分化誘導過程のヒストンH3セロトニン化の動態を観察する。蛍光プローブを発現した神経細胞を分化誘導培地に交換することで分化させた際の蛍光プローブの応答を観察する。 YEATSドメインを持つGAS41は白血病や肺がんなどに関与しているとの報告があり、そのためGAS41のYEATSドメインの阻害剤は抗癌剤の候補となる。作製した蛍光プローブを用いることによって、スクリーニングによりヒットした新規YEATSドメイン阻害剤が細胞内で選択的にGAS41のYEATSドメインを阻害することがわかった。現在論文準備中。
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