研究課題/領域番号 |
20K06503
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
恒川 直樹 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任研究員 (90638800)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 水素結合 / プロトン移動 / タンパク質 / 量子化学計算 / 密度汎関数法 / 大域的探索 / プロトン化 / 膜蛋白質 / X線結晶解析 / 蛋白質モデル構築法 / 分割統治法 |
研究開始時の研究の概要 |
蛋白質の結晶構造の決定は、その蛋白質の性質や働きのメカニズムを解析する重要な基盤となる。その決定はX線結晶解析などの実験的手法で為されるが、水素(H)やプロントン(H+)の位置までは分からないことが多い。H/H+の位置決定は水素結合の同定に他ならない。この水素結合は蛋白質の構造や反応に大きく影響を与えるもので、蛋白質を解析する上で無視できない。そこで、コンピュータでその位置を推測するツールを開発する。蛋白質分子の様な大規模な系に対して量子化学計算を適用し、水素結合ネットワークを網羅的に探索する点が既存のツールと一線を画する。それを実現するべく、新たな領域分割統治法を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究の解析手法では可能性ある構造すべてに対して量子化学計算を実行することが必須である。量子化学計算は律速となる部分であるが、これまでB3LYP/6-31G(d)レベルの密度汎関数法(DFT)での水素・プロトン位置の最適化をまず最初に実行していた。この基底関数系の選択理由は6-31G(d)はDFTにおいて一般的であることと、よりプアーなSTO-3Gなどでは電子状態計算の収束がより困難であるという研究者個人の経験則である。 本年度はこの経験則を確認して、より計算リソースが少なく迅速にかつ堅牢に計算が進められるよう、領域分割を行い異なる基底関数系を設定したDFT計算の有効性を確認した。具体的には、カルシウムポンプE2状態の膜領域イオン結合サイト近傍での22の可能性ある水素・プロトンの位置のモデル(水素結合ネットワークモデル)について、STO-3Gと6-31G(d)の両者での最適化計算を実行した。その結果、6-31G(d)では全て収束したが、STO-3Gでは6個のモデルで電子状態計算が収束に至らなかった。別に2個のモデルでは構造最適化は収束の気配が無く断念した。勿論、パラメータなどの変更で収束の可能性は残るが、網羅的計算において致命的である。また、6-31G(d)では全て成功したことから、次のような推測した。STO-3Gでは水素結合ネットワークの違いに対して計算の堅牢性は揺らぎ、様々な水素結合の電子状態の再現に不十分であるが、6-31G(d)ならば十分である。そこで、水素結合に関わる領域は6-31G(d)で、その他はSTO-3GでDFT計算を実行してみた。その結果、全て電子状態計算は収束し、水素・プロトンの位置の最適化を実行することができた。かつ、計算時間はほぼ半分となった。基底関数の数も6割ほどに抑えられた。 以上のことから、開発しているツールの有効性の改善が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の段階で研究の方向性を僅かに変え、最適な水素結合ネットワークの生成とその確認という目標から、水素結合ネットワークモデルのスクリーニングにした。網羅的な量子化学計算によるエネルギー比較をすることに変わりは無いが、その網羅性の徹底と、量子化学計算の高速化が課題であった。そして、更に、電気代の高騰や計算リソースの削減という問題もあって、より抑制した計算リソースでの実行を目指す優先度が上がった。その対処のために、代わりに計算プロトコルの自動化部分の開発に遅れが生じている。 また、現在、計算プロトコルの見直しを行い、より網羅性に漏れのない手法への改善を図っている。その結果、検証すべき解析が増えたことにより、来年度まで延長した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、研究者個人の経験則を元に、密度汎関数法の理論レベルを選択していたが、今年度実行した検証で、量子化学計算をより網羅的にかつ堅牢に実行する為の方針がはっきりしたと言える。そのため、開発中の手法の実効性の改善が期待でき、期待しているような自動化がより現実的になったと考えている。これらの手法の開発および実装を完了させるつもりである。 また、今年度は、22の水素結合ネットワークモデルのみの検証であったが、可能性ある水素結合ネットワークの数からして僅かである。より様々な水素結合ネットワークのモデルに適用した時、6-31G(d)では不十分である場合もあり得る。しかし、水素結合に関わる部分のみの基底関数系をリッチにするだけで対応できる可能性が高く、より現実的な手法へと近づいたことになる。また、計算リソースの抑制が出来たために、より大きな系への適用が可能になったとも言える。 そして、目的を水素結合ネットワークモデルのスクリーニングだけに絞った場合、水素結合に関わる部分のみを量子化学計算の対象にし、他の領域は無視しても構わない筈である。ならば、水素結合に関わる部分とそうでない部分の境界は何処にあるか、という問題点が出てくる。この境界をより詳細に明らかにすることで、より迅速で堅牢な水素結合ネットワークモデルの候補生成手法を開発するつもりである。
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