研究課題/領域番号 |
20K06516
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮武 秀行 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (50291935)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | in silico/in cell選択法 / PD-1/PD-L1 / 非IgG抗体 / 免疫チェックポイント / オプジーボ / mTORC1 / in-silico創薬 / 細胞内ルシフェラーぜアッセイ / in silico/in cell選択 / コンピュータ創薬 / PD1/PD-L1 / Rheb / 抗がん剤 / 免疫チェックポイント阻害剤 / in-silico変異実験 / in-cell分子相互作用アッセイ / オプジーボ (Nivolumab) / 非IgG人工抗体 / タンパク質工学 / 結晶構造 / T細胞再活性化活性 / 人工抗体 / in silico/ in vivo 複合選択法 / X線結晶構造解析 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、PD-1/PD-L1などの免疫チェックポイントを標的とした、モノクローナル抗体 (mAb)ベースの抗がん剤が注目を集めている。それらはすでに、オプジーボなどの商品名で販売され、画期的な薬効を有する抗がん剤として用いられている。一方で、mAb抗がん剤は、薬価が非常に高額になることが社会問題にもなっている。そこで本研究では、人工抗体タンパク質による免疫チェックポイント阻害剤の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
オプジーボなどのモノクローナル抗体薬は、免疫チェックポイントPD-1/PD-L1を阻害し、がん細胞の免疫逃避を阻害することで、抗がん剤として働く。一方で、モノクローナル抗体薬は細胞による調製が必要なため、低分子化合物に比べて高価であり、副作用や耐性の問題もある。そこで本研究では、大腸菌で調製可能な、オプジーボを代替する、非IgG型人工抗体阻害剤の開発を目指した。そのために申請者は、in-silico/in-cell複合選択法(特許出願中)を開発した。この方法により、まず、コンピューター上でPD-1/PD-L1複合体を再現し、in-silico変異実験により、PD-1とPD-L1の結合を強めるPD-1変異体候補を選択した。次に、選択した変異体候補を細胞内相互作用アッセイによりさらに選択した結果、PD-1の2残基変異体である2PD-1が得られ、T細胞再活性化活性も持つことがわかった。これにより、免疫チェックポイント阻害剤2PD-1の開発に成功した。 さらに申請者は、本手法を別のがん関連タンパク質複合体であるmTORC1にも適応た。mTORC1は多くのがん細胞で異常に活性化されており、抗がん剤の標的として有望である。しかし、mTORC1を阻害する既存の薬剤は副作用が大きく、効果も限定的であることが問題となっている。 そこで、申請者は、mTORC1に結合する低分子WRX606を選択し効果を調べたところ、WRX606はmTORC1の活性をピンポイントで阻害し、in vitroやin vivoの実験で抗がん効果を示した。 本研究では、新規なスクリーニング方法により、PD-1/PD-L1免疫チェックポイントとmTORC1という二つのがん関連の重要なタンパク質複合体を阻害する薬剤の開発に成功した。この方法は、今後のがんを標的とした創薬に貢献すると考えられられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、本研究課題では、がん治療に有効な非IgG型人工抗体免疫チェックポイント阻害剤の開発を目的としてスタートした。その結果、免疫チェックポイントタンパク質PD-1とそのリガンドPD-L1の相互作用を阻害する、PD-1の高親和性変異体(2PD-1)の調整に成功した。2PD-1は、PD-L1と競合的に結合し、免疫チェックポイントを阻害することにより、T細胞再活性化活性を持つことが示された。 これにより、本手法の有効性が証明されたことから、さらに応用範囲を広げるために、別のがん治療標的タンパク質であるmTORC1タンパク質キナーゼ複合体にも適用した。mTORC1は、栄養やエネルギーなどの細胞内シグナルに応答して、細胞分裂や代謝などの生命活動を制御する重要な分子である。多くのがん細胞では、mTORC1が異常に活性化されており、その阻害はがん治療に有効であると考えられている。しかし、既存のmTORC1阻害剤は副作用や耐性の問題があり、また他のタンパク質キナーゼにも作用してしまうことにより、予想外の副作用や、薬剤耐性が生じることが問題となっていた。そこで本研究では、ラパマイシンと同様の機序、すなわち、mTORC1のFRBドメインと、細胞内タンパク質FKBP12の結合を促進し、mTORC1活性をピンポイントでアロステリックに阻害する低分子化合物の開発を試みた。 その結果、WRX606という、非ラパマイシン類似化合物の選択に成功した。WRX606は、mTORC1のmTORC1のキナーゼ活性をアロステリックに阻害し、がん細胞の増殖を抑制することが示された。また、ラパマイシン類似化合物で問題になっている、免疫抑制によるがん転移はほとんど見られなかった。 以上のように、本研究課題では当初の研究計画以上の成果を得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、非IgG型免疫チェックポイント阻害剤2PD-1および、mTORC1アロステリック阻害剤WRX606の開発に成功した。一方で、これらの化合物の最適化の余地は依然として存在する可能性がある。そこで、今後の研究では、以下の二つの方向性を探求する。 一つ目は、2PD-1/PD-L1およびFRB-WRX606-FKBP12の結晶構造解析または、cryo-電子顕微鏡解析を行うことである。これらの構造解析により、2PD-1およびWRX606がそれぞれPD-L1およびmTORC1にどのように結合し、その活性を変化させるかを分子レベルで理解することができる。また、これにより、2PD-1およびWRX606の結合部位や結合モードを明確にすることができる。これにより、より高親和性や高効果の2PD-1変異体やWRX606類似化合物の設計やスクリーニングが可能となる。 二つ目は、2PD-1およびWRX606の前臨床試験研究を行うことである。これらの前臨床試験研究により、2PD-1およびWRX606の安全性や有効性を動物モデルや培養細胞で検証することができる。また、前臨床試験研究により、2PD-1およびWRX606の投与量や投与方法、投与期間などの最適な条件を決定することができる。これにより、2PD-1およびWRX606の臨床試験に向けた準備が整う。
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