研究課題/領域番号 |
20K06520
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
鈴木 詔子 新潟大学, 自然科学系, 博士研究員 (50401237)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2020年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 糖転移酵素 / 糖タンパク質 / 糖脂質 / 基質特異性 / 志賀毒素 / 糖鎖 / 遺伝子重複 / 進化 / 鳥類 |
研究開始時の研究の概要 |
①α4GalT1とα4GalT2の可溶型キメラ体を用いて酵素活性に寄与する部位を同定する。次に、②細胞内の局在に寄与する細胞質領域および膜貫通領域を含めた全長キメラ体を細胞に発現し、細胞表面の糖タンパク質/糖脂質の変化を特異的抗体と糖鎖構造解析で確認し、基質特異性に寄与する配列を同定する。さらに、③得られたキメラ体とα4GalT1の活性制御分子との相互作用を調べ、基質特異性における制御分子の影響を明らかにする。
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研究実績の概要 |
Galα1-4Gal配列はヒトなどの哺乳類ではglobotriaosylceramide (Gb3, Galα1-4Galβ1-4Glc-Cer, Cer: ceramide)やP1抗原(Galα1-4 Galβ1-3GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc-Cer)などとして 糖脂質上に発現しており、志賀毒素の受容体として利用されるが、糖タンパク質上には通常見られない。これは、Galα1-4Galを生成するα4-ガラクトース転移酵素(ヒトα4GalT)が糖脂質に対して基質特異的に働き、糖タンパク質に対しては作用しないためと考えられる。一方、ハトなどある種の鳥類ではGalα1-4Gal配列が糖タンパク質上に豊富に存在する。私たちは、これまでの研究でGalα1-4Gal配列を糖タンパク質上に生成するハト由来のα4GalT(ハトα4GalT2)をコードする遺伝子を同定した。ハトα4GalT2はヒトα4GalTとアミノ酸配列で58.2%のidentityがある。さらに、ハトのゲノム上には、α4GalT遺伝子と相同性のあるものが、7つ存在する。本研究では、このハトゲノム上のα4GalTホモログのうち3つをクローニングし、293T細胞に発現させてその酵素活性について調べた。その結果、ハトα4GalT1はヒトα4GalTと同様に糖脂質に作用してGb3を生成すること、ハトα4GalT2は主に糖タンパク質に作用することを明らかにした。一方、α4GalT3はα4GalT2と92%のidentityがあるにも関わらず、いずれの活性も見られなかった。これらの結果から、ハトにおいてはGalα1-4Gal配列を糖脂質上に生成する酵素と糖タンパク質上に生成する酵素の少なくとも2種類が存在し、さらに基質特異性が不明なホモログも複数存在することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハトゲノム上に存在する7つのα4GalTホモログを比較するために分子系統樹を作成すると、大きく2つのグループに分かれることが分かる。すなわち、糖脂質に作用するα4GalT1のグループ(α4GalT1とα4GalT4)と糖タンパク質に作用するα4GalT2のグループ(α4GalT2~3, 5~7)に大別される。また、セキセイインコやアデリーペンギンなど他の鳥類の多くは、α4GalT1ホモログとα4GalT2ホモログの2つのみをゲノム上にもつ。このことから、ある種の鳥類(Neoaves)ではα4GalT遺伝子が遺伝子重複し、変異によって基質特異性の異なる2種類の酵素が産生されるようになったと考えられる。その後、ハトのゲノムにおいてはそれぞれの酵素遺伝子がさらに遺伝子重複を繰り返して複数のα4GalT遺伝子をもつようになったと考えられる。このように、遺伝子を発現させて実際の酵素活性を調べるだけでなく、ゲノム上での遺伝子重複の生じる仕組みを調べることで、糖転移酵素の基質特異性が進化的に変化するメカニズムを調べることができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
私たちは、これまでの研究からヒトα4GalTでもその遺伝子を培養細胞に過剰発現させると糖タンパク質のN型糖鎖上にも少量ながらGalα1-4Galを発現することを明らかにした。興味深いことに、最近、他のグループからもヒトα4GalTの基質特異性に関する類似の報告があった。彼らはヒトα4GalTの変異型の一つ(Q211E)がGalα1-4Gal配列のみでなく、Galα1-4GalNAc配列も生成し、しかも野生型に比べて糖脂質のみでなく糖タンパク質へも作用しやすいという結果を示している。したがって、このQ211E変異型は、糖タンパク質/糖脂質の基質特異性の変化をもたらす部位の一つである可能性がある。しかし、この変異はハトα4GalT遺伝子には見られないため、この基質特異性の変化は別のメカニズムに起因する可能性も考えられる。いずれにしろ、今後は当該研究と関連深い研究が他の研究グループから発表される可能性が高いため、その動向には注意が必要である。 本研究では、引き続きハトのゲノム上に存在するα4GalTホモログの基質特異性に着目し、遺伝子重複後に変化したアミノ酸配列と酵素活性の関係を調べることで、α4GalTが糖タンパク質/糖脂質を識別するメカニズムを明らかにする予定である。
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