研究課題/領域番号 |
20K06524
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永田 崇 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (10415250)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | アミロイドβ / プリオン / アプタマー / NMR / 構造 / AFM |
研究開始時の研究の概要 |
アルツハイマー病患者の脳にはアミロイドβペプチド(Aβ)からなる繊維が蓄積するが、繊維化する前の溶解性Aβはさまざまな構造形態を取る。近年、溶解性Aβが神経細胞表面に提示されたプリオン蛋白質(PrPC)に結合し、記憶・学習障害に関与することが示された。また遊離したPrPCは、溶解性Aβに結合することでAβの繊維化を抑制することも示された。本研究では、我々が見出したAβの繊維化抑制ペプチドと抗PrPC RNAアプタマーをツールとして利用し、溶解性AβとPrPCとの複合体およびAβ繊維の形成原理を解明する。そして、治療への分子基盤を確立する。
|
研究実績の概要 |
アルツハイマー病患者の脳にはアミロイドβペプチド(Aβ)からなる繊維が蓄積することが知られる。一方で、記憶・学習障害の原因は繊維となったAβではなく、溶解性のAβであることが示唆されている。溶解性Aβは神経細胞表面に提示されたプリオン蛋白質(PrPC)に結合する。これにより、記憶・学習障害に連関するシグナルが伝達されると考えられている。我々はこれまでに、Aβの繊維化を抑制するペプチド、及びPrPCに強く結合する抗PrPC RNAアプタマーを見出しており、本研究ではこれらを使って、溶解性AβとPrPCとの複合体、及びAβ繊維の形成原理を解明することを目指している。溶解性Aβと抗PrPC RNAアプタマーのシナプス可塑性に対する影響を調べるため、マウスの海馬薄切片を使った電気生理学実験を開始し、条件検討を続けてきた。今年度は、溶解性Aβがシナプス可塑性を減弱させること、抗PrPC RNAアプタマーがこの減弱を回復させること等を示唆する結果を得た。 他方、抗PrPC RNAアプタマーを含め、さまざまなRNAアプタマーの特性を調べる方法論の確立と、得られた情報に基づいてRNAアプタマーの機能を高度化する研究も進めた。まず、RNAアプタマーが機能を発揮する上で重要となる分子運動を試験管内または細胞内で計測し、原子レベル分解能の情報が得られる手法を開発した。具体的には、生きたヒト細胞内に導入した核酸の塩基対の開閉運動が調べられるin-NMR法を開発した。それにより、二重鎖及び四重鎖構造の塩基対の開く頻度が細胞内では上がっていることの証拠が得られた。抗PrPC RNAアプタマーは四重鎖構造を形成しているため、その運動性を理解することで機能発現メカニズムの解明、及びさらなる機能高度化に向けた情報が得られると期待される。開発したin-cell NMR法に関して、論文(Nature Commun. 2022, Chem. Commun. 2022)や学会等で報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
溶解性Aβと我々が見出した抗PrPC RNAアプタマーのシナプス可塑性に対する影響を調べた。溶解性Aβと抗PrPC RNAアプタマーを各々海馬薄切片に投与した後、電気刺激を与え応答を観測する実験を行った。さらに、これらを順次加えて同様に観測を行う実験も、加える順番を変えるなどして行った。得られた結果は、溶解性Aβがシナプス可塑性を減弱させること、抗PrPC RNAアプタマーがこの減弱を回復させることを示唆するものであった。再現性を確かめるための実験を続けるとともに、溶解性Aβ、RNAアプタマー、PrPCの局在を示すため、蛍光標識や免疫染色等の実験を行った。しかし、溶解性Aβのロットが変わるに伴って、原因は不明であるが溶解性Aβの素性にばらつきが見られたため、条件検討も再度行った。 他方、RNAアプタマーが機能を発揮する上で重要となる分子運動の解析を試験管内または細胞内で計測し、原子レベルの分解能を持つ情報を得るためのNMRを利用する手法の開発を行い、論文や学会等で報告した。
|
今後の研究の推進方策 |
溶解性Aβの安定な供給方法を引き続き検討する。また、溶解性Aβ、繊維化抑制ペプチド、抗PrPC RNAアプタマーの分子間結合、構造、分子運動など、分子レベル、原子レベルの解析を進めていく。特に、今年度開発、及び既存方法の適用に成功したNMR法を使って、RNAアプタマーの分子運動解析を行い、RNAアプタマーについて機能発現機構及び機能高度化に関する情報を得る。NMR法については複数種類あり、既に測定に必要なパルスプログラムや、解析に必要なプログラムのコーディングは行ったが、それらの最適化や応用開発も引き続き行う。
|