研究課題/領域番号 |
20K06534
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43030:機能生物化学関連
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
大保 貴嗣 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (90207267)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | P型ATPase / Caポンプ / リン酸化中間体 / エネルギー共役 / フリッパーゼ / ポリアミン / クライオ電子顕微鏡 / カルシウムポンプ / P型ATPアーゼ / ATP13A2 / パーキンソン病 / 蛍光ラベル / 1分子観察 / ヘリックス / グリシン / 脱共役 / 柔軟性 / 構造変化伝達 / 復帰突然変異 / 部位特異的変異 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はP型ポンプのCaポンプ、フリッパーゼにおいて、ATPを加水分解する触媒部位と輸送部位の離れた部位間で「如何に構造変化が伝達されて共役が起こるか?」という未解決問題に答える。本研究は、Ca輸送の鍵となる「リン酸化中間体(EP)の異性化/Ca放出」過程の中間状態を筆者が捕捉したことを利用する。また、Caポンプで見出した構造因子の変異をフリッパーゼに応用する。さらにCaポンプで未解決であるCa放出前の2つのEP中間体アナログの原子構造を解明し、さらに新規変異の効果を解析する。着目した構造因子への変異の効果を上記2ポンプで比較し、その共通点/相違点からP型ポンプ共通の共役機構を解明する。
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研究実績の概要 |
P型ATPaseのCaポンプはATP加水分解に共役したCa輸送を行い、その輸送サイクルはリン酸化中間体(EP)の形成、異性化、加水分解を経由する。このEPの異性化(E1PCa2 → E2P + 2Ca2+)において細胞質領域の構造変化が膜ドメインの輸送部位に伝わり、E1PCa2の輸送部位に閉塞されていたCa2+が内腔へ放出される。膜貫通領域から細胞質に長く伸びたヘリックスM2はAドメインに繋がっている。M2の膜界面領域にあるGly105をAla 置換すると、EP異性化、およびエネルギー共役(Ca2+輸送/ATP加水分解)が阻害されるので、この領域の柔軟性がM2の機能に重要であると考えた。本研究ではエネルギー共役におけるM2膜貫通領域(M2m)の役割を調べるため、G105AとM2mのGly置換のダブル変異を構築し、機能解析を行った。その結果、G105A/V93GのみG105Aの脱共役から救済された。E1PとE2Pの各アナログの原子構造によると、V93はCa2E1PでM6のL793やW794と相互作用し、EP異性化/Ca放出後のE2Pでその相互作用が切断されていることから、エネルギー共役にはこの相互作用切断が重要であると結論した。 フリッパーゼは脂質を膜の内側から外側の層へ輸送するP型ATPaseであり、その類似酵素として、ポリアミン輸送ATPaseのATP13Aがある。しかし、輸送基質であるポリアミンの認識機構や輸送サイクルに関する理解は不明であった。そこで本研究では、クライオ電子顕微鏡による構造解析によって、ATP13A2の複数状態の構造を明らかにし、輸送に必須なアミノ酸残基の置換変異体の機能的解析をすることで、その独自な基質認識機構や輸送機構を明らかにした。ATP13A2の遺伝的変異はパーキンソン病に関連しており、この成果はこの疾患の理解に繋がると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Caポンプのエネルギー共役におけるM2mの機能的役割を部位特異的変異により調べ、細胞質ドメインの動きにより駆動されるM2mの構造変化が、内腔側Ca-gate開口とCa2+放出に重要であることを示した。フリッパーゼの類似酵素であるポリアミンを輸送するP型ATPアーゼATP13A2の輸送反応の様々な中間体の立体構造を決定し、また変異導入と機能解析から、その輸送メカニズムを詳細に解明することに成功した。本研究成果は2021年米国科学雑誌 Mol.Cellに出版された。フリッパーゼの脂質輸送過程に及ぼす部位特異的変異と構造解析についての研究が現在進行中であり、脂質輸送の鍵となるE2P分解過程の構造と部位特異的変異の効果が矛盾なく一致する結果を得ている。以上のように着実に成果を出すことに成功していることが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究はCa、脂質などを輸送するP型ATPaseの物質輸送メカニズムの解明である。CaポンプM2膜貫通部分M2mの部位特異的変異の効果について得られた結果を基にして、さらにM2周辺構造への変異も調べる。これより細胞質ドメインの大きな動きにより駆動されるM2mの構造変化が、内腔側Ca-gate開口とCa2+放出に及ぼす影響について調べ、M2のエネルギー共役における役割を解明する。ポリアミンを輸送するP型ATPアーゼATP13Aの輸送反応の様々な中間体の立体構造を基にしてその輸送メカニズムを解明する。特に、N末端領域(Ntd)の機能的役割については殆ど明らかにされていない。そこで、Ntdへの部位特異的変異を構築してその機能解析からこのメカニズムに迫る。フリッパーゼの脂質輸送過程に及ぼす部位特異的変異と構造解析についての研究が現在進行中であり、これを発展させる。脂質輸送の鍵となるE2P分解過程の構造と部位特異的変異の効果について機能解析を行い、得られた結果を基にして、さらにM2周辺構造への変異も調べる。
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