研究課題/領域番号 |
20K06580
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43040:生物物理学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 圭一 大阪大学, 大学院工学研究科, 特任准教授(常勤) (90432187)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | アミロイド線維 / 塩 / アニオン / ATP / ポリリン酸 / 液-液相分離 / 酸 / 塩析作用 / 塩析 / コスモトロープ / 蛋白質凝集 / 液液相分離 |
研究開始時の研究の概要 |
アミロイド線維や液-液相分離(Liquid-Liquid Phase Separation; LLPS)は様々な神経変性疾患と関連していると考えられており、その形成機構の解明は、アミロイド病の発症機構の解明や治療法の開発のために重要である。本研究では、多価の電荷をもつ核酸やATP、ポリリン酸などの生体高分子に焦点を当て、種々のアミロイド病原因蛋白質のアミロイド線維形成とLLPS形成の分子機構を解明する。これらの凝集体の生理的役割や構造的相関性を明らかにする。また、蛋白質の凝集体形成におけるポリリン酸類縁体の“促進と抑制”の相反する2つの作用機構について理解する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、ポリリン酸や核酸、ATPなど多価の負電荷をもつ生体高分子を用いて、アミロイド線維形成の促進または抑制機構について解析する。また、アミロイド線維形成と液-液相分離との関連性を明らかにする。申請者は、これまでパーキンソン病の原因蛋白質であるαシヌクレインや透析アミロイド病の原因蛋白質であるβ2ミクログロブリンを用いて、ポリリン酸によるアミロイド線維形成の促進作用について報告してきた。また、アミロイド線維形成が酸だけで促進されることを明らかにした。低濃度のアニオン溶液中では、蛋白質とアニオン間の電荷-電荷相互作用により、高濃度アニオン溶液中では、ホフマイスターの塩析作用によりアミロイド線維が形成されると考えられる。 一方、アデノシン三リン酸(ATP)は生体内では、エネルギー通貨としての役割を担っているが、同時に蛋白質凝集を促進または抑制する相反する2つの性質をもつことが報告されている。超音波照射下の実験では、細胞内の濃度に匹敵する数mMのATPによりアミロイド線維形成が促進された。高濃度のATP添加により、アミロイド線維形成はさらに促進された。これらの効果はアニオンと蛋白質分子間の相互作用と基本的には同じである。ATPの3つのリン酸基がアニオンとして作用して、蛋白質凝集反応を促進すると考えられる。 また、ポリエチレングリコールとデキストランを用いて、液-液相分離を模倣した系を構築した。その結果、アミロイド線維形成は、特に相分離した液滴表面で促進されることが分かった。蛋白質は、枯渇効果により液滴界面に濃縮され、そこが足場となり核形成が促進されると考えられる。このように、生体内でもアミロイド線維形成は、負電荷をもつ生体高分子や液-液相分離によって促進されると考えられ、これらの生理的役割について考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、令和2年度に、ポリリン酸によるαシヌクレインのアミロイド線維形成の促進機構に関して論文発表した(Yamaguchi, K. et al., J. Biol. Chem. 2021)。令和3年度は、酸または塩を用いてβ2ミクログロブリンのアミロイド線維形成におけるアニオンの役割りについて論文発表した(Yamaguchi, K. et al., J. Biol. Chem. 2021)。 アデノシン三リン酸(ATP)によるアミロイド線維形成実験では、ATP添加により、アミロイド線維形成が細胞内の濃度に匹敵する数mMのATPで促進されることが分かった。生体内では、ATPはエネルギー通貨としての役割があり、コスモトロピックなリン酸基を3つ持っており、過飽和状態が崩れることで、蛋白質凝集が促進されると考えられる。多価の電荷をもつ生体高分子の生理的役割について考察して、論文執筆中である。 液-液相分離とアミロイド線維形成との関連について検討するため、ポリエチレングリコール(PEG)とデキストラン(DEX)を用いて液-液相分離の模倣系を構築して、アミロイド線維形成実験を行った。蛍光顕微鏡を用いて、液滴とアミロイド線維を観察した結果、アミロイド線維は主にPEG相のDEX液滴の界面で形成されることが分かった。また、超音波照射により、無数の液滴が形成され、アミロイド線維形成が促進された。液-液相分離が促進するアミロイド線維形成機構について論文投稿中である。 ポリリン酸を用いて、アルツハイマー病の原因蛋白質であるタウ蛋白質のアミロイド線維形成実験について研究実施中である。また、リン酸カルシウム(アパタイト)が促進するアミロイド線維形成についても研究実施中である、リン酸カルシウム結晶の表面にはリン酸基が露出しており、アミロイド線維形成の足場になっている可能性がある。詳細に検討する。
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今後の研究の推進方策 |
通常、アミロイド線維形成には1日程度、少なくとも数時間は要するが、超音波照射下においてPEGとDEXの液-液相分離(二相分離)系を用いることで、アミロイド線維が瞬時に形成されることを見出した。この分子機構を明らかにすることで、過飽和という基本原理の理解につなげると共に、様々な分野に適応可能だと考えられる。一方、多価の電荷をもつ生体高分子は液-液相分離にも関与している可能性がある。これらの生体高分子の液-液相分離における役割について検討する。 タウ蛋白質のアミロイド線維形成におけるポリリン酸の役割についても検討する。タウ蛋白質には微小管と結合する正電荷を多く持つ領域があり、その領域がポリリン酸と結合して、アミロイド線維への構造変化を促進している可能性がある。ポリリン酸とタウ蛋白質の相互作用機構を明らかにする。 また、生体内ではリン酸カルシウム(アパタイト)などの結晶が存在しており、結晶表面には多数のリン酸基が存在すると考えられる。このような結晶はアミロイド線維形成のトリガーになっている可能性がある。生体内で形成される結晶性の化合物について、アミロイド線維形成の促進効果について詳細に検討する。
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