研究課題/領域番号 |
20K06618
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44010:細胞生物学関連
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
岸本 健雄 お茶の水女子大学, サイエンス&エデュケーション研究所, 客員教授 (00124222)
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研究分担者 |
奥村 英一 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (00323808)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 細胞周期制御 / 卵細胞 / 細胞内情報伝達 / 卵成熟誘起ホルモン受容体 / cyclin B-Cdk1 |
研究開始時の研究の概要 |
卵細胞における細胞周期制御の特徴は、細胞外刺激に連携している点にある。本研究では、未成熟卵細胞周期のG2/M期移行をもたらすために、いかにして卵外からの卵成熟誘起ホルモン刺激が伝達されるのかを解明する。申請者らにより卵成熟誘起ホルモンの刺激を卵表で受容したあとの分子経路はほぼ明らかになっているので、本計画では卵成熟誘起ホルモン受容体の同定に焦点をあてる。これにより、全動物卵を通じて初めて、G2/M期移行に至る卵成熟誘起ホルモン・シグナリングの全容を判明させたい。
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研究実績の概要 |
本計画では、ヒトデの卵成熟誘起ホルモンである1-methyladenine (1-MeAde) の卵表受容体の分子実体を同定し、卵成熟誘起ホルモンによるG2/M期移行シグナリングの全容を全動物で最初に判明させることを目指している。事前研究から、この卵表受容体と期待されるGPCR (G protein-coupled receptor) のcDNAを一つに絞ることができているので、このcDNAがコードするタンパク質(候補GPCR)がまさに目指している分子であることを確証したい。そのために、本年度は以下の実験を実施した。 (1) 昨年度に引き続き、候補GPCRの細胞内機能ドメイン(C末テイル部;昨年度はリン酸化部位、今回は別途にGbg結合部位)に対する抗体による機能阻害を目指した(内在性タンパクの認識は確認済み)。卵内に微小注射した抗体は対照実験に比べてわずかに阻害効果を示したので、それを卵表層に集積させる道具を開発しようとした。しかし、この道具はmRNAを卵内で発現させる必要があり、十分な効果を発揮しなかった。目下、別の方策を模索中である。 (2) 候補GPCRのN端側細胞外領域では、少なくとも2ヶ所(SEAとGPSの両ドメイン)でのペプチド切断が予想される。そこで最N末端とSEAとの間を抗原とする”N1抗体”と、SEAとGPSとの間を抗原とする”N2抗体”を作製して解析した。その結果、予想通りに断片化が起こり、しかも、その断片の少なくとも一部は、未切断細胞外領域と複合体を形成して受容体として機能している可能性が示唆された。 (3) そこで、N1抗体とN2抗体のそれぞれを海水中に単離したヒトデ卵に卵外から作用させることで、1-MeAdeの効果を抑制あるいは昂進するかを検討した。そうしたところ、N1抗体は無効であったが、N2抗体の方はかなりの阻害効果(約50%)を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最大の理由としては、前年度同様、コロナ禍による種々の制限で、実験を思い通りに進められなかったことが挙げられる。具体的には、実験の実施そのものに時間的な制約があったことだけではない。実験材料であるイトマキヒトデは各地域に応じた時期に採集し、採集後は実験室内で維持しているため、通常時でも卵を実験に使用できる期間は限られる。その限られた期間に合致するように採集や実験を実施できなかったことが相当に影響した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度でも述べたが、「候補GPCRの機能阻害による必要性の証明」こそが、本研究計画での最重要課題である。そのため、細胞外からにせよ細胞内からにせよ、あるいは中和抗体を用いるにせよ他の手法によるにせよ、あらゆる手を尽くしたい。 一方、今年度の「5.研究実績の概要」の末尾で述べたN2抗体による阻害効果は、再現性を確認するための実験を繰り返したところ、ある限られた条件下にあるヒトデ個体に限られることが見えてきた。すなわち、実験材料のイトマキヒトデは、その繁殖期に応じて全国各地(典型的には東京湾と陸奥湾)で採集し、それを実験室に持ち帰って水槽中で飼育しながら(長くても半年が限度)実験に用いている。それを踏まえて、N2抗体による阻害効果を検討したところ、ヒトデ個体の採集地や水槽での飼育期間に応じて異なることが見えてきた。しかも、その差異は単離未成熟卵におけるCdk1のリン酸化状態の差異と対応している可能性が判明した。この発見は、閾値以下の濃度の 1-MeAdeでもcyclin B-Cdk1は一旦は低レベルに活性化されるがすぐに不活化されるという我々の以前の報告(Hiraoka et al., J. Cell Sci., 2016)と相まって、1-MeAdeの受容体は果たして一種類に限られるのか、たとえそうであっても応答の引き起こし方は一通りではないのかもしれないという、新たな疑問を提示するものである。更にその先には、卵成熟誘起機構について新たで大きな展開が待ち構えているに違いないとの期待が募る。
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