研究課題/領域番号 |
20K06655
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44020:発生生物学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒巻 敏寛 大阪大学, 大学院生命機能研究科, 特任助教(常勤) (30525340)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | サイズスケーリング / 細胞膜電位 / 形態形成 |
研究開始時の研究の概要 |
ゼブラフィッシュ変異体の解析から、魚類の付属肢(ヒレ)の形態制御にはイオンチャネルを介した機構が関与していることが示唆されている。しかしながら、その作用メカニズムについてはほとんどわかっていない。申請者はこれまでの解析から、表皮細胞間で膜電位が伝達することによりモルフォゲン様に位置情報として機能している可能性を見出した。光遺伝学を利用して表皮細胞膜電位を人為的に操作する技術を開発し、膜電位の変動を可視化する技術と組み合わせてこの仮説を検証する。また、開発した膜電位操作技術を応用し、膜電位の変動が表皮細胞、または他の細胞種に及ぼす影響や、その作用メカニズムの特定を試みる。
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研究実績の概要 |
以前の研究で、ゼブラフィッシュでは表皮細胞の膜電位がヒレの形態に影響することが示されたが、そのメカニズムはほとんどわかっていない。本研究では、この機構の解明を目指し、膜電位の機能をより直接的に解析するための手法の確立に取り組んでいる。現在、神経科学分野で広く利用されている光応答性の陽イオンチャネル、チャネルロドプシンを用いて表皮細胞の膜電位を人為的に操作することを試みている。表皮細胞にチャネルロドプシンを発現するトランスジェニックフィッシュを作成し、光照射下で飼育した。この操作により表皮細胞の膜電位は上昇していると推測されるが、その結果、ヒレの短縮が起こった。逆に、表皮細胞にカリウムチャネルを発現させて膜電位を人為的に低下させる操作を行ったところ、ヒレは長く伸長した。さらにこの2つを組み合わせることで、光条件を変えることによりヒレの伸長を任意に制御することにも成功した。今後はこの実験系を用いて、膜電位がヒレの形態を制御する分子メカニズムの詳細を明らかにしていきたい。 表皮細胞にも神経細胞のように動的な電気的活動があるのだろうか?これを確かめるため、本研究では表皮細胞における膜電位動態を検出する観察系の確立にも取り組んでいる。まずは検出感度を最優先に考え、神経活動の検出によく使われる細胞内カルシウムレポーターGCaMPを用いて間接的な検出を試みた。表皮細胞にGCaMP6sを発現するレポーターフィッシュにおいて、表皮細胞内のカルシウム濃度が短時間に激しく変動していることが観察された。今後は、膜電位動態をより直接的に検出するために、各種膜電位レポータータンパク質を用いて観測に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
表皮細胞の膜電位を操作するために、前年度はチャネルロドプシンとkcnk5bカリウムチャネルを組み合わせて発現させた。しかしながら、この組み合わせではチャネルロドプシンの効果が十分に発揮されず、ヒレの形態変化を誘導することができなかった。今年度では、チャネルロドプシンによる膜電位上昇をより効率的に引き起こすために、膜電位感受性を持つKIR2.1内向き整流性カリウムチャネルと組み合わせた。このトランスジェニックフィッシュは、光照射の無い条件ではヒレは大きく伸長したが、光照射下ではヒレの伸長が抑制された。面白いことに、光照射によってヒレの伸長を抑制したのちに、光照射の無い条件に移したところ、ヒレの伸長が再開した。このことから、ヒレの大きさは表皮細胞の膜電位によって動的に制御されていることが推測される。 前年度では、表皮細胞での電気的活動を検出するために、細胞内カルシウムレポーターGCaMP6sを発現するトランスジェニックフィッシュを作成した。 この魚のヒレを切除後、再生する過程をライブイメージングにより観察したところ、再生芽の表皮でランダムなスポット状のGCaMP6sレポーター活性が観察された。興味深いことに、それらスポット状のシグナルは短時間で発生と消滅を繰り返していた。今年度では、この細胞内カルシウム動態と膜電位動態との関連を検証するために、ASAP3、Ace2-mNeonGreenなどの膜電位レポータータンパク質を表皮細胞に発現するトランスジェニックフィッシュの作成を試みた。
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今後の研究の推進方策 |
チャネルロドプシンと内向き整流性カリウムチャネル(KIR2.1)を組み合わせることで、光照射により表皮細胞の膜電位を操作し、ヒレの伸長を任意にコントロールすることに成功した。このトランスジェニックフィッシュを用いて、膜電位が変動した際にヒレの組織に生じる変化を検出する。シングルセル解析などにより膜電位下流で発現が変動する遺伝子を同定し、さらに膜電位がその遺伝子の発現を制御する分子メカニズムの解明にも迫りたい。 表皮細胞での膜電位変動を直接的に検出するため、膜電位レポータータンパク質を表皮細胞に発現するトランスジェニックフィッシュ系統を作成する。 これらのレポーターフィッシュを用いて、GCaMP6sと同様にライブイメージングを行う予定である。また、現状のライブイメージング系では長くとも4-5時間程の連続観察が限界であるが、この期間ではヒレの伸長過程を観察するには短すぎる。より長時間のライブイメージングを目指し、実験系の改良を並行して行う。
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