研究課題/領域番号 |
20K06749
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
山本 博章 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 客員教授 (40174809)
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研究分担者 |
田村 勝 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, チームリーダー (50370119)
矢嶋 伊知朗 芝浦工業大学, システム理工学部, 教授 (80469022)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 毛周期 / 毛色 / 乾癬遺伝子 / 毛周期時計 / マウス |
研究開始時の研究の概要 |
毛の再生等、比較的長い周期を持つ生命現象の機構解明は進んでいない。申請者らは、数回の毛の生え変わり(毛周期)後から、それ以降の再生ごとに毛色を交互に変更し、1本の毛にも異なるメラニンの繰り返しパターンを発現できるマウス変異体を発見した。この原因遺伝子はヒト乾癬の1原因遺伝子であるCARD14遺伝子のオルソログであり、coiled-coilドメインをコードする部位に変異を持つ。本研究は、Card14とメラニン合成の鍵酵素・チロシナーゼの発現解析を時系列で行い、また当該遺伝子産物の変異サイトと相互作用する因子の解明を行うことによって、長い周期を持つ毛周期の分子機構解明に資する基盤とする。
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研究実績の概要 |
概日周期等に比して、それより長い周期を示す生命現象の分子機構解明は進んでいない。哺乳類の毛の再生周期もその一つで、若いマウスにおいては約30日、ヒトにおいては年単位の周期を持つ。研究代表者らは、生後数回の毛の生え変わりを経て、それまでの暗い毛色から淡い毛色に変化させ、以後この周期ごとに濃淡の毛色を発現させる変異体を維持してきた。この原因遺伝子のマッピングには長時間を要したが、ヒト乾癬の1原因遺伝子であるCARD14遺伝子のオルソログで、これまで報告のほとんどない特異な部位の変異が原因となっていることを見出した。この変異体は研究代表者らの独自の系統であり、マッピングの過程で作製したゲノム編集マウスのアレルも利用しながら、Card14遺伝子が周期的な毛色発現にかかわる機構にせまり、長周期を示す生命現象の一端を明らかにしようとしたものが本計画である。 表現型発現に数か月もの長時間を要すること、またホモ接合体は致死であることから、当該変異体の集団サイズを大きくすることに注力してきた。オリジナルの変異体は1塩基置換であり、その検出法として正確なPCR法を開発できたのは昨年度までの進展であった。また当該部位周辺に変異を持つゲノム編集マウスにおいても点突然変異を含むものがあり、今年度は、この検出もPCR法で確認できるようになった。 それに比して、抗体を用いたCard14相互作用因子の解析についてはまだハードルを越えることができていない。一つには、皮膚組織を用いた試行に加え、培養細胞系を用いた解析に難渋しているからである。またマウスの維持系統は、毛周期を可視化できる有用な系統になりうるが、本計画の初期に比して、マウスの背側に形成される毛色パターンが不鮮明になりがちで、その原因が飼育環境に因るものかどうか、検討を要している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
昨年度は1塩基置換を容易に再現性良く検出できるPCR系が開発できたので、明確な(強い)表現型を示す個体数維持の課題を改善することができた。 Card14タンパク質と相互作用する因子を抗体を用いて解析しようとする計画については、利用する抗体の選抜について、市販の数種類の製品、および作製した抗体の検討が進んだ。しかしながら、抗原タンパク質のソースについて、それを十分に得るシステムがうまく構築できていない。オリジナルのCard14変異体、またゲノム編集系統のマウスから、Card14タンパク質を発現するケラチノサイトの初代培養を行い、継代して維持できるようになった細胞集団がそのソースとして理想的と判断し、そのシステムの構築に努力した。その結果、初代培養細胞を継代できるようになったが、いまだに増殖速度が異常に遅く、質量分析に利用できる細胞数を確保するところで停滞している。大きな規模で長時間培養することでこの課題を超えることができるかどうか、見極めが必要な段階である。 さらにCard14が関与する情報系の新たな解析を可能にするマウスの作出については、上記のCard14と相互作用する(新たな)因子の解析結果を待って、より有効なマウスの作出をもくろんでいたためもあり、進展していない。
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今後の研究の推進方策 |
Card14遺伝子の作用機序解明を通して、毛周期の分子機構解の基盤を確かなものにしようとしてきた。2年目の昨年度は当該遺伝子の発現解析を進めるための抗体に目途がついた段階であり、今年度は相互作用タンパク質を解析するための質量分析を行えると期待していたが、抗原のソースを十分得ることができなかった。生体の毛包に局在する色素細胞の周囲に存在するケラチノサイトが、色素細胞に指令して、結果的に濃淡の色素を毛に発現させるためには、皮膚全体から抗原を調製するのではなく、培養ケラチノサイトからの調製が必要と、当初より考えていたが、その培養ケラチノサイトが十分得られない、という関門に苦しんでいる。今年度は、オリジナルのCard14変異体およびゲノム編集個体から得た初代培養系で、継代可能となっているいくつかの細胞集団から抗原を調製し、抗体を用いた免疫沈降物が、現在利用できるLC-MSによる解析に耐えられるかどうか、まず確認したい。これまでは、この解析を行う前段階で、調製した試料が量的に不十分と判断してきたところではあるが。もし適当な培養ケラチノサイト集団(初代培養由来の)が見いだせた場合は、それを用いた詳細な解析に移ることにする。これがうまくいかない場合は、オリジナルの変異体と、ゲノム編集個体をソースとする初代培養系の規模を大きくし、同様の解析を試みる。今年度は矢嶋、田村、山本の全員がこの点について解析を進める。いずれにしても、我々が見出した毛色と乾癬の原因遺伝子と相互作用する(新たな)タンパク質の一端をぜひ明らかにしたい。
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