研究課題/領域番号 |
20K06750
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
小林 卓 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (50325867)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | synchronous oscillation / olfactory center / neuronal regeneration / mollusk |
研究開始時の研究の概要 |
本研究課題は、ナメクジの嗅覚中枢とその自己再生能力を用いて「同期的振動ネットワーク内の仕組み」を解明することを目的とする。そして、ニューロンが同期して情報処理することの意義を理解することを目指す。ナメクジの脳はヒトより少数のニューロンで構成されるが、嗅覚中枢である前脳葉だけはニューロンが高密度に集まって層構造を成し、同期的な振動活動により嗅覚情報処理や記憶を司っている。前脳葉や触角は物理的損傷からの再生能力が高いので、それを利用して同期的振動(脳波)のしくみと意義を明らかにする。生命科学にとどまらない「同期」現象の秘密にも迫りたい。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、脳の神経細胞たちが層状に整列して同期活動することの意義とその仕組みを明らかにすることを目指し、再生能力の優れたナメクジの脳を用いて、同期振動ネットワークが作られて行く様子を調べています。 陸棲軟体動物チャコウラナメクジの嗅覚中枢である前脳葉は、ヒトの脳と同様に神経細胞(ニューロン)が層構造を形成し、同期振動活動により嗅覚情報処理(においの嗅ぎ分け・記憶など)を行っている。これまでの研究から、分散培養系において、バラバラにした前脳葉ニューロンが再び神経突起を伸ばして同期振動ネットワークを再形成することが分かっている(Kobayashi 2017,2019)。前脳葉ニューロンの自己再生能力を利用して、in vitro同期振動ネットワークが出来上がって行く過程をボトムアップ的に調べることで、これまでブラックボックスであった前脳葉ネットワークのひとつの側面が明らかになると考えている。 購入を予定していた研究機器や試薬の製造停止などにより、事業が計画通りに進行したとは言えないが、既存の設備や代替の試薬を使用することで、予定を変更しながら研究を進めることができた。ひとつは、福岡女子大と継続して共同研究を実施している前脳葉の神経ペプチドに関する研究。自発的な同期振動活動を調節し得る候補について新たに報告予定である。これまでに調べてきた神経ペプチドたちと同様に、新規のペプチドが前脳葉内に広く分布または投射して同期振動活動を調節する主要な要因であることが分かってきた。 さらにもうひとつ、前脳葉の同期振動活動を駆動するコリナージック支配について、新規のコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬を試し、in vitroでの同期振動活動を引き起こし得ること、また、これまでのAChE阻害薬とは作用が異なる点から、同期振動活動の仕組の本質が見えてきたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予期しない研究機器メーカーの製造停止や試薬の製造中止により、研究計画の変更があったが、既存の設備機器や代替の試薬を使用することで、研究成果を得ることができたから。 具体的には、ナメクジ嗅覚中枢のin vitro同期振動ネットワークにおける①神経ペプチドと②コリナージックシナプスに関する成果がありました。 ①軟体動物腹足類の中枢神経系において多種多様な神経ペプチドがこれまでに見つかっており、ナメクジでも多くのペプチドが同定され、我々はその機能を示唆する結果をこれまでにいくつも報告してきました。昨年度のFxRIaに引き続き、本年度はMIP1について調べ、前脳葉ニューロンの自発的な活動電位の発生を抑制する作用について、FxRIaとは異なる作用を示唆する結果を得ました。このような多様な神経ペプチドの薬理学的作用により前脳葉の同期振動活動が調節され得ることを報告予定です。 ②コリナージックシナプスがin vitroの前脳葉ニューロン・ネットワーク内の同期振動活動発生において重要であることはこれまでの研究から明らかになってきています。コリナージックシナプスを賦活する際にこれまで使用してきたフィゾスチグミンが使用できなくなったことから、代替のコリンエステラーゼ阻害薬としてネオスチグミンを試し、前脳葉ニューロンに対して興奮性の作用があることを確認できました。さらに、in vitroネットワークにおける同期振動の発生に関してはフィゾスチグミンとネオスチグミンによる作用に差があることが示唆されました。このことは、両者の作用点こそが同期振動活動発生の仕組みの重要なポイントであることを示しています(論文1)。嗅覚記憶中枢の第一候補でありながら未だブラックボックスのままである前脳葉ネットワークにおいて、細胞間コミュニケーションと同期の仕組みを考える上でとても興味深い点を見つけたと考えています。
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今後の研究の推進方策 |
今後も前脳葉ニューロンを用いたin vitro同期振動ネットワークの網羅的な解析を行い、薬理学的作用や生理学的性質について概ねの目当てをつけた上で、単一ニューロンでの解析を進めて行く予定です。具体的には、①神経ペプチドに関する薬理学的な解析の継続、②電気シナプスおよびinnexinタンパクに関する電気生理学的な解析、そして、③in vitroでの同期振動活動の発生に関与しているコリナージックシナプスについての薬理学的解析を行う予定です。③のin vitro同期振動活動の発生にはアセチルコリンとニコチン性受容体を介した前脳葉ニューロンの興奮性の増大が重要であることが分かってきました。一方で、複数のコリンエステラーゼ阻害薬を使用することにより、コリナージックシナプス以外の要因が重要であることが示唆されるので、①②も含めて、単一ニューロンでの解析が必要になります。培養ニューロンではほとんど報告の無い、シナプス電流レベルでの詳細な薬理学的解析、複数の前脳葉ニューロンにおける同時記録により、新しい知見が得られることを期待しています。また、培養系での研究がスムーズに進まない場合には、触角神経節と前脳葉によるsemi-intact標本を用いて、2つの同期振動ネットワークの関係から両者の同期振動とその相互干渉の仕組みを探ることを計画しています。そのための細胞外記録および細胞内記録のシステムは研究代表者の下に既に備わっています。
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