研究課題
基盤研究(C)
肺動脈性肺高血圧症は、肺血管の障害によって、持続的に肺動脈圧が上昇する致死性の難病である。我々は、カルシウム感受性受容体と血小板由来増殖因子受容体の発現機能亢進が肺高血圧症の病態形成に関与すること、また、それらの拮抗薬が肺高血圧症モデル動物の病態を改善することを明らかにしてきた。本申請課題では、それらの下流シグナル経路を明らかにし、肺動脈性肺高血圧症の病態機構の解明や新規治療薬の開発につなげる。
肺高血圧症臨床分類の第1群であり、最も典型的な臨床像を示す肺動脈性肺高血圧症(難病)の原因は、肺動脈平滑筋細胞の攣縮(過収縮)とリモデリング(肥厚、線維化、炎症)の亢進である。これらの病因による肺動脈圧の上昇は、動脈壁全体を硬化させ、肺血流量を低下させる。最終的には、右室肥大から右心不全に陥る。肺動脈性肺高血圧症の発症原因は解明されていないが、その病態形成には、細胞内カルシウム濃度の持続的な上昇が関与することが知られている。これまでに血小板由来増殖因子によってカルシウム感受性受容体の発現や機能が亢進することを報告してきたが、その発現制御メカニズムについては不明であった。本研究課題において、健常人と肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞を用いて、RNAシークエンス解析を実施した結果、様々な受容体の発現が亢進していた。その中で、受容体の下流シグナルの一つであるRhoキナーゼに着目した。Rhoキナーゼ2の活性が肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞で亢進し、Rhoキナーゼ2の特異的な阻害薬であるKD025によってその異常な細胞増殖が抑制された。次に、化合物ライブラリーを用いて、肺動脈性肺高血圧症患者由来の肺動脈平滑筋細胞の異常な増殖を抑制する化合物をスクリーニングした。その結果、天然物由来のコロソリン酸が、NF-kBやSTAT3の発現を制御し、血小板由来増殖因子受容体の発現を抑制することを明らかにした。また、コロソリン酸は、マクロファージの活性も抑制し、肺動脈性肺高血圧症に特徴的な肺血管リモデリングを改善した。本研究成果は、肺動脈性肺高血圧症の病態形成メカニズムの解明や新規治療薬を開発する上で有益な知見であると考えられる。
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