研究課題/領域番号 |
20K07227
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48010:解剖学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
江角 重行 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 講師 (90404334)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | GABAニューロン / 大脳皮質 / 分化転換 / GAD67 / 抑制性神経 / 脳障害モデル / 神経発生 / 細胞系譜 / LayerI / GABAergic Neuron / 抑制性ニューロン / VGAT / Development / Layer I / synapse / cerebral cortex |
研究開始時の研究の概要 |
哺乳類の高次脳機能を担う大脳皮質は興奮性のグルタミン酸ニューロンと抑制性のGABAニューロンの二種類の神経細胞によって支えられており、6層構造を持つ。その中のI層では特徴的なGABAニューロンのみが存在し、グルタミン酸ニューロンの樹状突起末端部に対して、多数の抑制性シナプスを形成している。この研究は、生後発達期や臨界期において、入力情報のコントラスト比の調整やノイズ除去など機能を持つと考えられる抑制性の大脳皮質I層GABAニューロンに着目して、グルタミン酸ニューロンとの相互発達過程や階層的発達制御機構を解析し、その分子メカニズムを明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
哺乳類の高次脳機能を担う大脳皮質は興奮性のグルタミン酸ニューロンと抑制性のGABAニューロンの二種類の神経細胞によって支えられいる。私は、大脳皮質I層GABAニューロンに着目して、グルタミン酸ニューロンとの相互発達過程や階層的発達過程を解析し、その分子基盤を明らかにすることを目的として研究を進めた。研究を進める過程で、発生・発達期においても、分裂能を持ったGAD67陽性大脳皮質GABAニューロン前駆細胞が存在し、大脳皮質I層にも多く存在することを明らかにしてきた。そこで、我々は新生仔期脳損傷時の大脳皮質GABAニューロン前駆細胞の分裂・分化能の変化を探ることにした。具体的には、GAD67-CrePRマウスを利用して、生後0日目のGABAニューロン前駆細胞をラベルし、生後1日目に凍結による外傷性脳損傷を与え、生後3週間でGABAニューロン前駆細胞(GAD67系譜細胞)の動態の解析を行った。その結果、健側の大脳皮質では、ほぼ全てのGAD67系譜細胞は分裂していなかったが、脳損傷領域では多くのGAD67系譜細胞が分裂してることがわかった。さらに解析を進めた結果、その分裂ピークは脳損傷後2日以内であることから、脳損傷後すぐにGABAニューロン前駆細胞が分裂を始めることがわかった。興味深いことに、脳損傷領域(グリア瘢痕)にs100βやNestinなどのグリア細胞マーカーを共発現しているGABAニューロン前駆細胞由来の細胞GAD67系譜細胞が多数認められた。この結果は、脳損傷が引き金となって、通常ではGABAニューロンに分化するGABAニューロン前駆細胞が増殖した後、グリア細胞に分化転換しグリア瘢痕の一部となることを示唆している。現在、この細胞種や動態についての解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大脳皮質は記憶、認知、判断といった高次脳機能が発現されるきわめて重要な働きを担う部位である。これらの機能は、興奮性のグルタミン酸ニューロンと抑制性のGABAニューロンの二種類の細胞によって支えられている。通常のマウスの脳発生では、大脳皮質のGABAニューロンは主に内側/尾側基底核原基に由来しており、産生されたGABAニューロンは、接線方向に移動して大脳皮質に加わる。私達は、これまでの研究成果から、大脳皮質I層を含む上層に存在するGAD67陽性GABAニューロン前駆細胞が、環境や障害時になどにグリア細胞に分化する能力を持っているのではないかと考え、時期特異的にGAD67陽性細胞をラベルすることができるGAD67-CrePR;Rosa26-floxed-TdTomatoマウスを用いて、生後発達期に凍結脳障害を与えた際のGAD67陽性細胞の動態を観察した。生後0日目にGAD67陽性細胞をラベルし、生後1日目に片側の大脳皮質に凍結脳損傷を与え、生後2日目-3週齢にEdUを連続投与したマウスを解析した結果、凍結脳損傷領域周囲にグリア細胞のような形態を持つ、GAD67系譜細胞(GAD67+ lineage cells@P0)が多数認められた。GAD67+系譜細胞は、NeuNやTuj1,Dcxなどの神経細胞マーカーで染色されないことや、一部がグリア細胞マーカーであるNestinやs100bと共染色されることから、凍結脳損傷が引き金となって、通常では全てGABAのニューロンに分化する予定のGAD67系譜細胞(GAD67+ lineage cells@P0)が、グリア細胞に分化転換しグリア瘢痕の一部となることを示唆している。現在、この細胞種や動態についての解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
私達は、これまで、大脳皮質I層GABAニューロンの階層的制御機構のメカニズムを遺伝子改変マウスを用いて解析を行ってきた。最近の遺伝子改変マウス(GAD67-CrePR;Rosa26-floxed-TdTomato)を用いた結果から、生後初期に大脳皮質I層や上層に存在するGAD67陽性GABAニューロン前駆細胞が凍結脳障害を受けた際に一部はグリア細胞に分化転換することが明らかになった。この結果は、当初の計画では予想することができなかった興味深い結果であり脳障害時の新しい治療方法の開発につながる可能性もある。最終的には、大脳皮質GABAニューロン前駆細胞の可塑性の分子メカニズムを解明し、障害領域で起こる分化転換を阻害し、そのままGABAニューロンに分化させることで、神経回路の修復を目指す予定ですある。令和5年度は、グリア細胞に分化転換した細胞群の性質や細胞種を詳細に調べるために一部、研究計画の修正を行う。具体的には、GAD67-CrePR;Rosa26-floxed-TdTomatoマウスを用いて、凍結脳障害によってい発達期に生じる分化転換は、発達段階の違い(生後1週齢、3週齢、成体)により、分化能が変化するか解析を行う。細胞の動態は、3重免疫組織化学染色やイメージングを行って解析する予定である。私は先行研究で、新生仔や成体マウスの大脳皮質から単一神経細胞を単離する技術を確立しており、その手法はChromium Single-cell RNA-seq(sc RNA-seq)に応用可能である。この実験を行う機材や熊本大学に設置されているため、研究が進展する場合はsc RNA-seqを試みることで変動する遺伝子群を明らかにし、そのメカニズムを明らかにする予定である。
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