研究課題/領域番号 |
20K07236
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分48010:解剖学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岩永 ひろみ 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (30193759)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 細胞組織化学 / 皮膚感覚装置 / グリア可塑性 / 終末シュワン細胞, / プリン作動性信号 / 細胞動態 / 終末シュワン細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
皮膚感覚装置のグリアである終末シュワン細胞とその周辺に常在する星形シュワン様細胞が成長などに応じた感覚装置の生理的改築に関わる,との仮説を検証する目的で,①ラット頬ひげ毛包丸ごと免疫染色標本の共焦点顕微鏡立体再構築による星形シュワン様細胞と終末シュワン細胞の動態解析,②2型のグリア細胞とその中間型の微細形態,特に相互接着と結合組織との関連の解析,③グリアが緑色蛍光を発する遺伝子改変ラットからセルソーターで分離した感覚装置グリア細胞での機能分子特に受容体の遺伝子発現解析,④頬ひげ毛包局所への受容体遮断剤投与効果の組織学的解析,を行う。
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研究実績の概要 |
ラット頬ひげ動き受容器槍型終末は,薄板突起で軸索を包む終末シュワン細胞とその予備軍とされる星形シュワン様細胞の2種グリアを随伴する。前年度までに分離標本を用い,両細胞種が軸索終末から放出される信号物質ATPの受容体P2Y2を発現すること,星形シュワン様細胞ではP2Y2作動薬が細胞内信号分子ERK1/2の活性化(リン酸化)を惹き起こすことを示した。また槍型終末が形態成熟する生後21日以降のラットで,頬ひげ毛包全周を俯瞰する丸ごと標本作成法を確立した。これを用い,本年度は動物の成長に伴う上記2種グリア細胞の動態とプリン作動性信号の働きをしらべるため,以下の実験1,2を行った。 実験1.グリアが緑色蛍光を発する遺伝子改変ラットを4匹ずつ以下のA-E群に分け,ホルマリン灌流固定組織から頬ひげ毛包丸ごと標本を作成,毛包全周に分布する問題の2種細胞を共焦点顕微鏡の立体再構築像で観察・計数した。A.正常群21日齢,B.同28日齢,C.媒体皮下投与群28日齢,D.P2Y2遮断剤皮下投与群28日齢,E.ERK阻害剤皮下投与群28日齢。 実験2.生後17-27日齢ラットにチミジン類似物質EdU 5 mg/kgを連日1回5日間腹腔内に投与し,投与最終日の翌日に材料採取して頬ひげ毛包丸ごと標本を作成,Click-iT Plus (Invitrogen) で分裂細胞を可視化した。 実験1では,生後21-28日の間に槍型終末への新規グリア動員を示唆して,毛包全周の終末シュワン細胞総数が初めの約10%増加し,ほぼ相当数の星形シュワン様細胞が減少していた。P2Y2遮断剤はこの細胞動員を有意に抑制し,ERK阻害剤も同様の効果を示した。実験2で,問題の2種グリア細胞にチミジン類似物質の取り込みは検出されず,観察された生後成長期間の槍型終末へのグリア動員は細胞分裂を伴わないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は,生後21日齢以降成長期から成熟・老齢ラットの頬ひげ槍型終末を観察対象として,ホルマリン固定組織から槍型終末を含む毛包丸ごと標本を作成して共焦点顕微鏡で立体観察し,以下の(1),(2)を行うことを計画していた。 (1)毛包成長に伴う槍型感覚終末の構造改変を軸索終末のグリア鞘をなす終末シュワン細胞とその予備軍とされる星形シュワン様細胞の増減・分布変化として量的にとらえ,細胞のATP受容体P2Y2の遮断効果とその細胞内信号経路を生体レベルの実験で解析する。 (2)成熟期(2-6カ月齢)および老年期(1歳)のラットの槍型終末の形態変化とそれにまつわる上記2種グリア細胞の数・分布の変化を解析する。 上記(1)に関しては,星形シュワン様細胞が終末シュワン細胞に姿を変え形態成熟後の槍型終末グリア鞘に動員されること,この細胞動員は星形シュワン様細胞のP2Y2受容体を介した細胞内信号分子ERKのリン酸化に少なくとも部分的に依存していることを明らかにし,当初の計画通りに実験を進めることができた。これらの成果を2回の国内学会で報告し,また,一部は論文としてすでに発表した。上記(2)に関しては,有髄神経の再生でみられる修復シュワン細胞に似たグリア性細胞,軸索終末の退行変化を示唆する特異な構造とそれを囲い込むグリア突起などが新たに見出されたが,それらの存在意義,問題の2種グリア細胞との関係を解析するため,さらに光顕・電顕的精査が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
形態成熟後の比較的若い槍型感覚終末でみられた,P2Y2受容体活性化依存的な星形シュワン様細胞のグリア鞘への動員に関しては,同受容体が脳グリア細胞を含むさまざまな細胞の炎症性変化に関わるとの近年の報告を注視する必要があり,この分野の研究者が集まる国際学会 第16回 European Meeting on Glial Cells in Health and Disease (正常及び病的グリア細胞に関する西欧会議,2023年7月8―11日,ベルリン)で成果を発表し,意見交換を行う予定であり,発表内容に関する論文を執筆中である。 成熟期および老年期の槍型終末でみられた特異な構造物とグリア性細胞との関係については,すでに採取・固定した組織材料で毛包丸ごと標本を作成し,グリアの貪食能指標であるガレクチン3免疫染色と組み合わせて共焦点顕微鏡解析を行うのに加え,細胞分裂・細胞死の組織化学的検出と電顕観察のため新たに標本を採取する予定である。
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