研究課題/領域番号 |
20K07464
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分49040:寄生虫学関連
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
長安 英治 宮崎大学, 医学部, 准教授 (20524193)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 糞線虫 / 霊長目 / ガラゴ / ガボン / 分子系統解析 / 系統解析 / 進化 / 寄生虫 / 線虫 / 食肉目 / 宿主 / 分子系統 |
研究開始時の研究の概要 |
ステルコラリス糞線虫はヒト糞線虫症のほとんどを引き起こす重要な糞線虫種(腸管寄生線虫)である。ステルコラリス糞線虫がいかにしてヒトの寄生虫となったのかという進化シナリオに関する定説は存在しない。 本研究では、ガボン(西アフリカ)、ベトナム(大陸部東南アジア)、ペルー(南米)に棲息する霊長目および食肉目宿主を中心とした糞線虫のサンプリングを行い、次世代シーケンシングにより得られる配列データを用いた詳細な分子系統解析、比較ゲノム解析を実施することで、ステルコラリス糞線虫へと至る進化過程のゲノムレベルでの解明を目指す。
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研究実績の概要 |
ヒト糞線虫症を引き起こす主要な糞線虫種であるS. stercoralisの進化的起源を明らかにするため、さまざまな霊長目動物に由来する糞線虫の検出と、それらのS. stercoralisに対する系統関係の解析を引き続き実施している。 アフリカの霊長類に関しては、その多様性に関わらず、それらに感染しているStrongyloides属についてはほとんど知られていなかった。本年度はガボンのInternational Centre for Medical Research of Franceville (CIRMF)の霊長類研究センターにおいて7種の非ヒト霊長類の糞線虫属線虫感染状況を調査した。その結果、3種の霊長類がStrongyloides属線虫を保有していることが分かった。チンパンジー(Pan troglodytes)とサンテールモンキー(Allochrocebus solatus)から分離された糞線虫はこれまでアジア、アフリカにおいて様々な旧世界ザルから検出されてきたS. fuelleborniと同定された。一方、トマスコビトガラゴ(Galagoides thomasi)から分離された糞線虫は、分子系統解析の結果、これまで記載されたことのない糞線虫属の一員であることが分かった。このガラゴ由来糞線虫はStercoralis-Procyonisグループとして知られるクレードに属することが分かった。このクレードに含まれる糞線虫は基本的には食肉目動物由来糞線虫だが、例外的にS. stercoralisとボルネオに生息するスローロリスの糞線虫が含まれることが知られていた(Frias et al., 2018)。核ゲノム上の13の遺伝子座配列情報の結合データを用いた解析 (multi-locus phylogenetic analysis)では、このガラゴ由来糞線虫がS. stercoralisとお互いに単系統の関係にはないことが示された。Stercoralis-Procyonisグループの糞線虫はこれまで提唱されているように、基本的には食肉目動物の寄生虫として種分化をとげてきており、霊長目動物への寄生性は、ヒトおよび、ガラゴの祖先においてそれぞれ独立して獲得されたものであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定されていたアフリカ大陸に棲息する霊長類からのサンプリングを実施することができた。霊長目動物を宿主とする糞線虫種としてS. stercoralis、S. fuelleborni、S. cebusの3種が知られていた。この他に、Friasらはボルネオ島に棲息する曲鼻亜目霊長類であるスローロリスからこのどれにもあてはまらない糞線虫を報告していた (Frias et al., 2018)。今回発見されたガラゴ(曲日亜目)由来糞線虫もやはり、既知の種に当てはまらず、ミトコンドリアcox1遺伝子をマーカーとした分子系統解析では、ボルネオのスローロリスおよびガボンのガラゴ由来の糞線虫の単系統性が示唆された。また、これらのスローロリスおよびガラゴの糞線虫はこれまで主に食肉目動物寄生性の糞線虫種から構成されるSterociralis-Procyonisグループに内包されることが分かった。Sterociralis-Procyonisグループは食肉目動物の寄生虫として種分化を遂げてきたもので、S. stercoralisはその例外としてイヌ宿主からの宿主転換によりヒトへの寄生性を獲得したものだと考えられてきた。今回のガラゴ由来糞線虫の発見により、本グループの進化史における霊長目宿主への宿主転換は独立して少なくとも2回起こったことが明らかとなった。 また本年度、Illuminaシーケンサを用いたDNA-seqデータから、分子系統解析に有用と考えられる比較的保存された13マーカー遺伝子の全長配列を、さまざまな糞線虫種について取得することに成功した。過去に報告されている18S rRNA遺伝子配列を用いた解析は解像度が低く、結果の不安性が指摘されてきたが、この手法により信頼性の高い系統解析を実施することが可能になったことが本年度における大きな成果の一つである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、当初の研究計画に従い南米(ペルー)の霊長類からの糞線虫サンプリングを実施する。Ricardo Palma大学 (リマ)および Amazonia Peruana大学 (イキトス)の2か所を拠点とし、ペルー国内の動物展示施設、保護施設からの霊長目動物 (新世界ザル)便検体の受け入れと、寒天平板法による糞線虫の検出を行う。また、アルパカ、アルマジロ、テンジクネズミなど南米地域に特有の宿主動物に関しても同様に検体の入手と糞線虫の検出を試みる。 18S rDNA配列の解析により、得られた糞線虫種の大まかな分類を行い、それぞれの分類群を代表するサンプルに関し、Illuminaシーケンサを用いたDNA-seq解析を実施する。南米の糞線虫の配列データを、すでに得られているアジア、アフリカの様々な宿主由来の糞線虫の配列データを用いた解析に追加し、糞線虫属の進化ならびに種分化の歴史に関する全体像を明らかにする。
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