研究課題
基盤研究(C)
持続的なしびれや疼痛など、他覚的評価が困難な自覚的慢性疼痛の病態を明らかにし適切な治療法を見出すことは、疾患や研究手法を問わず永年の課題となっているものの、未だ解決に至っていない。本研究では、慢性疼痛としての自覚的感覚障害を生じている脳機能状態と機能異常を非侵襲的に検出することを目的とする。本研究ではMEGとEEGでの検出を比較検証することにより、一般臨床での脳活動からの感覚障害評価手法も開発呈示する。本研究成果は、自覚的症状の定量的客観診断手法となるとともに、慢性感覚障害の病態を明らかにすることで治療に関する情報を提供するものと期待される。
2023年度には,疼痛患者および健常者の脳磁図および脳波の測定を蓄積し,病態に対応した解析手法を開発した.すでに本研究事業の成果として報告した神経接続性の研究(国際学術雑誌2編)に加え,新たな解析手法を取り入れた.近年脳神経のシナプス伝達からネットワーク機能までのレベルで神経機能制御の中核的要素となる興奮-抑制バランス(E-I バランス)の視点から,脳波および脳磁図の中心的神経数理モデルである neural mass models(NMMs) を基にした脳活動のアルファ波の envelope 解析を行った.解析手法は,NMMs を構成する興奮性および抑制性の二次微分式の要素となる時間についての二次微分項に着目し,アルファ波の envelope の二次微分値の比について機能障害を有する認知症,および慢性疼痛患者の脳波について解析した.いずれも結果は国際専門誌に投稿中である.Sano M, Hoshiyama M (corresponding author) et al. Analysis of the alpha activity envelope in electroencephalography in relation to the ratio of excitatory to inhibitory neural activity. PlosOne (under review).Sano M, Hoshiyama M (corresponding author) et al. Envelope oscillation of alpha activity in patients with complex regional pain syndrome. Heliyon (under review).Osumi M, Hoshiyama M et al. Resting-state Electroencephalography Microstates Correlate with Pain Intensity in Patients with Complex Regional Pain Syndrome. Clin EEG Neurosci. 2024 Jan;55(1):121-129.Iwatsuki K, Hoshiyama M et al. Chronic pain-related cortical neural activity in patients with complex regional pain syndrome. IBRO Neurosci Rep. 2021 May 13;10:208-215.
1: 当初の計画以上に進展している
研究期間中には,課題「慢性感覚障害とその評価に関する脳ネットワーク機能異常の検出と慢性疼痛評価法の開発」内容の達成とともに,新たな脳機能評価方法が見いだされ,脳波および脳磁図のバイオマーカーとして広く普及が期待される.見出した解析手法は,一定測定時間内におけるアルファ波のエンベロープの正・負の二次微分値の比率は,健常者で一定の値をとり,脳機能異常領域ではその比の値が異常となる.これまで脳波などの電気的脳活動は,周波数と振幅といった時間経過に基づく解析が中心であった.本手法は計測時点ごとにかかる神経活動の増減加速度(振動子モデルでの加速度)の割合が機能異常では崩れることをあきらかにした.脳領域ごとに評価が可能であり,認知症の病型別,慢性疼痛との相関領域,うつ病の程度との相関領域など,がすでに検証済みであり,順次論文化を進めている.開発された手法は数理モデルとの整合性も認められ,これまでにないバイオマーカーとしての期待がもたれる.この点において,期待以上の成果が得られたものと評価した.
コロナ禍で進捗が遅れたものの,その間,解析モデルを公開データ(オープンデータセット)で検証するなど,成果に向けての研究を旺盛に遂行した.期間の延長が認めらえた2024年度には更に複数の論文成果が見込まれる(現在執筆中).本研究課題は2024年に完結する見込みであるが,更に発展と応用の可能な指標を見出したことにより,期間以後の研究継続も期待されるところとなった.
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)
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