研究課題/領域番号 |
20K08087
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52040:放射線科学関連
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
木村 充宏 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (90782334)
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研究分担者 |
長縄 直崇 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 特任助教 (60402434)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 陽子線治療 / 陽子ホウ素捕捉療法 / ホウ素陽子捕捉療法 / 飛跡検出器 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、ホウ素11と陽子の核反応により生じるアルファ粒子を用いて細胞殺傷効果を向上させるホウ素陽子捕捉療法(PBCT)の研究が進められている。細胞実験では良好な結果が得られているが、その作用機序に関しては未だ不明な点が多い。 申請者らはサブミクロンの位置分解能をもつ原子核乾板を使って、ホウ素標的から放出されるアルファ粒子を検出し、物理線量を定量的に見積もった。その結果11B(p,a)2a反応による線量付与が主要な作用機序でないことが明らかになった。 本研究では新型原子核乾板を開発して陽子ホウ素原子核反応の反応点近傍を直接観察し、二次粒子の線質を求め、PBCTの作用機序の物理モデルを明らかにする。
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研究実績の概要 |
(1) ホウ素薄膜標的の製作 名古屋市立大学芸術工学部にあるRFマグネトロンスパッタ装置を用いて、厚さ7.5 umのポリイミドフィルム上に厚さ3.0 umのホウ素を成膜した。走査型電子顕微鏡の回折像はアモルファス構造を示した。X線反射率法によるホウ素膜の物理密度は2.8±0.1 g/ccであり、文献値2.37 g/cc (PDG) と比べて2割ほど大きく、膜内部の密度のばらつきも大きいことが分かった。屈折率の測定では、膜表面で密度が小さくなる傾向を示したことから、表面付近で酸化層を形成している可能性が示唆された。 (2) 陽子線照射実験 名古屋陽子線治療センターで陽子線照射実験を実施した。製作したホウ素膜と原子核乾板を密着した検出器に平均 22 MeVの陽子線を10^9 cm^-2の密度で照射した。名古屋大学物理F研究室で現像と自動飛跡読取装置PTS-3による読み出しを行った。飛跡を構成する銀粒子の数(銀粒子密度)からαと陽子を識別した。2本以上からなる飛跡の組み合わせからホウ素膜内に収束点が存在する事象を探索し、終状態にαを含む事象を抽出した。しかし乾板平面の法線方向となす角 tanθ < 1.0 の領域では、現像後に乾板の膜厚が薄くなる影響で深さ方向の銀粒子を分離できず、銀粒子密度ではαと陽子を識別できないことが明らかになり、乳剤層の膨潤が必要なことが分かった。 (3) 細胞生存率の測定 ホウ素薬剤の投与群と非投与群の細胞生存率を測定し、PBCTの有効性を検証した。薬剤N-BSH (濃度640 ppm) をヒト肺腺がん細胞A549に投与し、3.5 MeVの陽子を0,2,4,8 Gy照射して、コロニー形成アッセイを行った。投与群と非投与群の細胞生存率は誤差の範囲で一致し、PBCTの有効性を示した Cirrone Sci Rep 2018 の実験結果を再現しなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年4月に陽子線がん治療の保険収載範囲の拡大に伴い、所属施設の陽子線治療患者数が増加(令和5年度の新規患者850人)した。研究代表者が担当する治療品質管理業務の業務量が増加したことから、研究の進捗が遅滞した。
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今後の研究の推進方策 |
垂直な飛跡の粒子識別ができないため、2πの角度アクセプタンスをもつ原子核乾板の特長を活かすことができない。そこで垂直な飛跡に対しても銀粒子密度で粒子識別できるようにするため、飛跡を構成する銀粒子の間隔が光学系の被写界深度以上になるよう乳剤層を膨潤し、一つ一つの銀粒子を観察できるようにする。今回用いた直径40 nmの大きさの臭化銀結晶からなる超微粒子乳剤を塗布した乾板は、浸水のみで乾燥時の約10倍の膜厚まで膨潤され、その後適切な濃度のグリセリン水溶液に漬けることで陽子とαを2σで分離する膜厚に固定できることを、既に確認している。 今後は上記膨潤処理を施した乾板の顕微鏡画像を再度取得して、終状態にα粒子を含む事象を抽出する。得られた結果から終状態にα粒子を含む反応の断面積を求めて、Cirrone et alが報告した細胞実験から推定される陽子線線量増強効果を説明できるか検討する。
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