研究課題
基盤研究(C)
昨今の癌薬物療法の進歩は目覚ましい。しかし、抗癌剤は様々な頻度・重症度で心筋障害・心機能低下を引き起こすが、抗癌剤による心筋障害を根本的に予防・治療することは困難である。申請者の研究テーマは「グレリンの循環器疾患への治療応用」であり、これまでに心筋梗塞・心肥大・心不全モデルに対するグレリンの治療効果について多くの知見を発表した。グレリンはラット胃から発見された「摂食亢進作用・成長ホルモン分泌促進作用・骨格筋量増加作用」等を有するホルモンである。本研究の目的は、「グレリンの生理作用を応用した、抗癌剤による心筋障害の画期的治療薬を開発すること」である。
ドキソルビシン(DOX)は悪性リンパ腫・乳癌・肺癌等の治療に広く用いられている抗癌剤だが、不可逆的な心毒性を来すことがあるため、使用に際しては経時的な心機能評価が必要である。ヒトの病態を反映するマウスモデル確立のため、DOXを4 mg/kg/weekで5回腹腔内投与・8 mg/kg/weekで5回腹腔内投与を行ったが、エコーで評価した心機能はやや低下したものの、心臓のみならず肝臓・腎臓・脾臓の萎縮も顕著であり、DOX複数回投与でのモデル確立は困難と判断した。そこで最終年度は文献報告を参考にDOX1回投与法を試してみた。9週齢野生型オスマウス(C57BL6/J)に、20 mg/kgでDOXを1回腹腔内投与した。対照群には生食を投与した。投与後5週間体重測定を行ったが、DOX投与群20匹のうち、3匹が途中で死亡した。最終的な体重は、対照群:26.9gに対しDOX群:20.5g(P<0.0001)と、DOX群で顕著に低下した。心エコーデータは、DOX群において対照群に比べ左室後壁厚が有意に薄くなり、左室内径短縮率が有意に低下した。臓器重量は、心臓のみならず肝臓・腎臓・脾臓重量がDOX群で有意に低下していた。本モデルを使い、グレリン投与がDOX投与による体重減少、左室壁厚減少・心機能低下を抑制できるか検討することにした。グレリンは200μg/kg/dayで3週間毎日1回皮下注した。結果、グレリン投与はDOX投与による体重減少を全く抑制できなかった。しかし心エコーのデータは、グレリン投与群において、DOXによる左室中隔および左室後壁厚の低下が抑制され、左室内径短縮率の低下も抑制されていた。以上のことから、グレリンはドキソルビシンによる抗癌剤誘発性心筋症の病態を改善させ得る可能性が示唆された。
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Kidney International
巻: 104 号: 3 ページ: 508-525
10.1016/j.kint.2023.06.007
Hypertension
巻: 79 号: 7 ページ: 1409-1422
10.1161/hypertensionaha.121.18114
https://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~pharmac/