研究課題
基盤研究(C)
ヒドロキシクロロキン(HCQ)は、世界各国の医師が処方している全身性エリテマトーデス(SLE)に対する治療薬で、本邦でも2015年から処方が可能となりました。生命予後改善効果やSLEの再燃予防効果とともに、SLEの腎障害の蛋白尿改善効果や、長期腎機能予後改善効果が報告されています。一方で、稀に腎障害や、網膜障害をきたす事が知られています。この研究では、培養腎臓細胞を用いて、HCQの腎保護作用と腎毒性の機序を明らかにした後、臨床検体(尿、血清)中の、HCQの腎保護作用や腎毒性と関連のある物質の濃度を検討し、HCQの腎保護効果や腎毒性、ひいては網膜毒性と関連のあるバイオマーカーを同定します。
全身性エリテマトーデス(SLE)における標準治療薬であるヒドロキシクロロキン(HCQ)は、およそ7-8%の症例で、HCQ網膜症を発症し、不可逆的な視力低下に陥る。また、稀ではあるが、HCQによるポドサイト障害も報告されている。本研究では、臓側糸球体上皮細胞(ポドサイト)の細胞株を用いて、HCQのポドサイトへの保護効果、細胞毒性、およびその機序を検討することを目的とした。これまでに、マウス培養ポドサイトにおいて、10 microg/mL未満の低濃度HCQが長期培養で細胞死を抑制すること、10-40 microg/mLの高濃度HCQでは、細胞内顆粒および空胞形成が亢進し、ポドサイトが細胞死に至ることが明らかとなった。また、その後の検討で、培養網膜色素上皮細胞におけるHCQの毒性も、20-80 microg/mLの高濃度HCQで、ポドサイト同様に細胞内顆粒および空胞形成が亢進し、細胞死に至ることが明らかとなった。マウス及びヒトのポドサイト細胞株で、JAK1, Tyk2のmRNAおよび蛋白の発現をqPCRとWestern Blottingで確認できた為、JAK阻害薬がHCQによる細胞死に対する影響を確認した所、バリシチニブ、ウパダシチニブが、濃度依存性に、HCQによる細胞死を抑制すことを見出し特許出願した。このJAK阻害薬のHCQによる細胞死抑制の機序として、細胞老化の抑制が関与することを明らかにするために、ヒトのポドサイト細胞株を用いて、老化関連β-galactosidase染色を行った所、HCQにより細胞老化が亢進すること、この細胞老化がJAK阻害薬で部分的に抑制されうることを見出した。
4: 遅れている
新型コロナウイルス感染患者の対応を含めた臨床業務の多忙さもあり、HCQの毒性におけるJAK阻害薬の効果の検討は進んだ一方、低濃度HCQによるポドサイト保護効果の検討が未施行で、また、RNAseqによるHCQの毒性やJAK阻害薬によるHCQ毒性の抑制効果の分子機序の詳細な検討、およびその結果を応用した、HCQ内服SLE症例の血清および尿中のHCQの毒性マーカーの検討が未施行であり、遅れている、と判断した。
最終年度である次年度前半のうちに、高濃度HCQによる培養ポドサイト細胞死の機序の解明のため、ポドサイトマーカー発現の変化、転写因子TFEB、TF3Bの核内分布の程度と発現の変化、オートファジーマーカー・老化マーカーの発現の変化について、免疫蛍光法、ウエスタンブロッテイング法で検討。次年度前半までに、RNAseq解析を行い網羅的に高濃度HCQ処理によるポドサイト細胞死で発現が活性化しているpathwayを明らかにする。また、最終年度後半には、RNAseq解析の結果をもとに、HCQ内服SLE症例の血清および尿を用いたHCQによる網膜障害や腎障害と関連のあるバイオマーカーを見出す臨床研究も可能であれば行いたい。
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