研究課題/領域番号 |
20K08912
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54040:代謝および内分泌学関連
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
益崎 裕章 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00291899)
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研究分担者 |
岡本 士毅 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (40342919)
山崎 聡 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (50622792)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 玄米機能成分 / γ-オリザノール / アルコール依存 / 認知機能障害 / 動物性脂肪依存 / 脳機能 / 海馬 / 脳内報酬系 / 肥満症 / 神経内分泌学 / 分子栄養学 / γ-オリザノール / 食行動変容 |
研究開始時の研究の概要 |
健康寿命延伸の鍵として期待されているのが『食習慣の改善による脳機能低下の予防』である。恒常性維持のための食行動よりも中毒的・快楽的な食行動が凌駕すれば生活習慣病や認知機能障害の発症・進展基盤となる。本研究では研究代表者らが世界に先駆けて推進してきた玄米由来機能成分、γ-オリザノールによる動物性脂肪依存の改善効果に関わる一連の研究成果を踏まえ、脳内アセチルコリン・シグナルに焦点を絞り、γ-オリザノールがアルコールに対する依存的行動の予防・改善や認知機能低下の改善に有効であるという仮説をマウス病態モデルの解析によって検証し、臨床医学に還元できる科学的エビデンスを構築する。
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研究実績の概要 |
中年期の肥満がのちの人生における認知機能低下のリスクを増大させることが注目されており、病態モデルマウスを用いた研究代表者らの一連の研究により、肥満に関連する認知機能低下メカニズムの一部に動物性脂肪、アルコール、ニコチンに対する依存的行動嗜癖が関与する可能性が明らかになりつつある。 本研究では玄米由来機能成分、γ-オリザノールがアルコールに対する依存的行動嗜癖を予防・改善すること、および、加齢と動物性脂肪餌の給餌によって誘導される空間認識能や新規物体識別能などの短期記憶の指標を改善することを新たに見出し、これに関わる脳内メカニズムについて病態モデルマウスを用いて検証した。 アルコールに対する依存的行動嗜癖に陥ったマウス脳においてはドパミン産生ニューロンの起始部である腹側被蓋野(VTA)に対するコリン作動性神経の入力が顕著に減弱しており、ドパミン分泌が減少していることを突き止め、γ-オリザノールが報酬系ネットワークにおいてアセチルコリン分解酵素(AChE)の活性を阻害する新規機能を見出した。さらに、この効果がマウスの空間認識能・新規物体認識能の改善と密接に関連していることを明らかにした。 VTA、および、VTAに向けてアセチルコリン神経を直接投射する上流の神経核として位置付けられる背外側被蓋核(LDT)に存在するAChEタンパク量について定位脳外科手術手法を用いて人工的に抑制し、マウスのアルコール嗜好性に対する影響を個体レベルで検討した。その結果、LDTにAChE mRNA発現量を抑制するアデノ随伴ウィルスベクターを感染させることにより、LDTにおけるAChE mRNA発現量が半減し、マウスのアルコール摂取量は約40%に著明に抑制された。一連の実験の結果、個体レベルでγ-オリザノールがアルコール嗜好性を改善する脳内メカニズムとニューロンネットワークが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
γ-オリザノールがAChEプロモーター領域において抑制性転写因子Egr1を含む巨大蛋白質複合体形成を促進することが新たに判明し、Egr1に結合する転写因子群を網羅的に探索するためにDIAプロテオーム解析を実施して約1300の候補因子を抽出し、Egr1と直接結合する橋渡し因子としてp300及びCREBBPを同定することに成功した。現在、これらの因子を介してEgr1と結合する候補因子の拡大解析を行い、計5つの候補因子を抽出することにも成功しており、特にγ-オリザノールに結合する可能性が高い受容体型転写因子に着目してノックダウンや強制発現系を組み合わせてターゲット因子の絞り込みを実施中である。 また、γ-オリザノールが高齢肥満マウスの認知機能に与える影響を検証すべく、50週齢雄性C57BL/6Jマウスを通常食(LC)群、高脂肪食(HF)群に分けて16週間、飼育した。その後、ナノ粒子化して消化管からの吸収効率を高めたNano-Orzを用い、HF群を無処置群、Nano-Orz低用量(LO)群、Nano-Orz高用量(HO)群の3群に分け12週間、経口投与し、Y-maze testにより認知行動機能を評価した。LC群に比べHF群では短期記憶能指標の空間作業記憶率が68%に低下したがLO群では88%にHO群では93%にまで改善した。特に、HF群に比べHO群の海馬では神経新生マーカーDcx mRNA発現量が2倍、脳由来神経栄養因子BDNFが1.3倍、抗炎症性サイトカインIL-10が1.7倍に有意に増加していた。さらに、HF群に比べHO群では海馬歯状回のBrdU・Dcx二重陽性細胞数が2.5倍に増加していることを見出した。 以上からNano-Orzの長期投与が海馬における抗炎症性M2 typeミクログリアを増加させ、抗炎症作用と海馬神経新生作用の両面から認知機能を改善する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本科学研究費により、認知機能障害改善剤及び認知機能障害改善用経口組成物:特許:第 7426036号 (登録日:2024年1月24日)および アルコール依存症の予防薬及び治療薬並びにアルコール依存症の予防食品及び治療用食品:特許:第7244002号(登録日2023年3月13日)と、研究テーマに密接に関連する2件の特許を発明代表者として取得することに成功した。これらの知的財産権を足掛かりとして、肥満に関連する依存的行動嗜癖と認知機能低下を効果的に予防・改善する治療の社会実装に取り組む計画である。 γ-オリザノールに結合する可能性が高い受容体型転写因子に着目し、ノックダウンや強制発現系を組み合わせて、ターゲット因子の絞り込みを本年度中に完了させ、γ-オリザノールが肥満に伴う認知機能低下を改善する新規の脳メカニズム、特に転写調節機構の全体像を明らかにし、研究成果を英文論文として公表出来るように取り組む計画である。 また、γ-オリザノールによる認知機能向上効果の分子メカニズム解明においては長期間のγ-オリザノール投与が実際に海馬領域の神経再生を誘発するメカニズムに関して機能的連関の検証を継続し、新規の予防医学の構築に繋げる計画である。
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