研究課題/領域番号 |
20K08990
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55010:外科学一般および小児外科学関連
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
藤田 恵子 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (80173425)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 肝芽腫 / 細胞膜ナノチューブ / がん微小環境 / 細胞間コミュニケーション / ミトコンドリア / がん悪性化 |
研究開始時の研究の概要 |
小児肝臓の悪性腫瘍で罹患率の高い肝芽腫の新たな治療法開発のために、培養実験を用いた基礎的な面から肝芽腫の病態解明の研究に取り組んできた。 肝芽腫細胞間には微小環境の変化に応じ、遠隔にある細胞を物理的に連結する「細胞膜ナノチューブ」が出現する。細胞から分泌されるタンパク質により、前がん細胞あるいは正常細胞のがん化が促進されるとされ、細胞膜ナノチューブによって輸送される物質が、がんの悪性化に関与すると考えられる。 肝芽腫の微小環境をターゲットとした新たな治療法開発のため、肝芽腫細胞間をつなぐ細胞膜ナノチューブと微小環境の特性解明に焦点を絞り、研究を推進する。
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研究実績の概要 |
細胞間コミュニケーションとして、細胞膜ナノチューブを介した物理的連絡が重要な構造として注目されている。腫瘍においては、細胞膜ナノチューブが腫瘍とその微小環境の間のクロストークを可能にし、化学療法抵抗性や細胞遊走能を促進する。一方、ミトコンドリアは細胞移動を促進するエネルギー生産に関与するが、細胞膜ナノチューブを介してドナー細胞からレシピエント細胞にミトコンドリアが移動し、レシピエント細胞のエネルギー産生をアップレギュレーションし、腫瘍細胞の転移が促進される。 これまで小児悪性腫瘍である肝芽腫(hepatoblastoma)における微小環境(ニッチ)の特性、ヒト肝芽腫細胞間における細胞膜ナノチューブの構造と機能について検討してきた。肝芽腫細胞間には種々の構造の細胞膜ナノチューブが形成されるが、チューブで連結された細胞の多くは共通した特徴を有していることが確認された。2023年度は肝芽腫細胞間における細胞膜ナノチューブの形成とその機能、とくにミトコンドリアトランスファーについて検討した。 肝芽腫細胞間に細胞膜ナノチューブがみられ、チューブ形成を誘導するM-Secの局在を確認した。また、ラメリポディアやフィロポディアなどの細胞突起と異なり、細胞膜ナノチューブは培養基面との接触を維持せず、細胞間を自由にホバリングする。さらに、肝芽腫細胞内のミトコンドリアが細胞膜ナノチューブを介して隣接する細胞に移動することを観察した。ミトコンドリアトランスファーはとくに幹細胞で起こりやすいとされていることから、ヒト肝芽腫幹細胞のマーカーであるCD133陽性細胞と細胞膜ナノチューブの関係についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小児悪性腫瘍である肝芽腫(hepatoblastoma)における微小環境(ニッチ)の特性、ヒト肝芽腫細胞間における細胞膜ナノチューブの構造と機能について研究を進めてきた。2023年度は肝芽腫細胞間に認められる細胞膜ナノチューブの形成とその機能、とくに細胞膜ナノチューブにおけるミトコンドリアトランスファーについて検討した。 実験の結果、肝芽腫細胞間には種々の構造の細胞膜ナノチューブが形成されるが、細胞膜ナノチューブで連結された細胞の多くは共通した特徴を有していることが確認された。2次元培養を実施すると、細胞膜ナノチューブは培養基面との接着を維持することなく、細胞間を自由にホバリングする像が観察された。 免疫染色を用いたin vivoイメージング法により、細胞膜ナノチューブを介したミトコンドリアの移送を観察することができた。ミトコンドリアの移送についてはSEMによる観察でも示唆する所見を得ることができた。 肝芽腫がん幹細胞のマーカーであるCD133の局在とミトコンドリアの関係について観察した結果、細胞膜ナノチューブで連結された細胞にCD133の反応が認められ、さらに、チューブ内をミトコンドリアが移送されている様子が観察された。 本課題の研究成果は対面開催された日本解剖学会総会・全国学術集会(沖縄県那覇市)で発表し、多くの研究者と討論することにより、本課題の実験を遂行するにあたり非常に有用な情報交換ができた。
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今後の研究の推進方策 |
小児肝臓における悪性腫瘍のなかで、罹患率の高い肝芽腫(hepatoblastoma)の新たな治療法開発のために、肝芽腫細胞株(HuH-6 Clone-5)による培養実験を用いた基礎的な面から肝芽腫の病態解明の研究に取り組んできた。離れた細胞間の物質輸送やシグナル伝達などの細胞間コミュニケーションをつかさどる「細胞膜ナノチューブ」の構造と機能の解析を進めてきた。細胞膜ナノチューブを介して、複数の細胞間で複雑で特異的なメッセージの伝達が可能になり、がんの増殖・転移が進むことが考えられる。 2024年度も、肝芽腫の微小環境、細胞間コミュニケーションをターゲットとした新たな治療法開発のため、肝芽腫細胞間をつなぐ細胞膜ナノチューブと微小環境の特性解明に焦点を絞り研究を行いたい。 本学の中央研究施設に新規導入される共焦点顕微鏡 (ZEISS LSM 900 with Airyscan 2) を用いて、より解像度の高い画像を検出したいと計画している。また、この顕微鏡には低酸素培養装置を装備予定なので、低酸素培養下における細胞膜ナノチューブの動態についても検討していきたい。 本研究の目的である、① 細胞膜ナノチューブの構造と役割、② 細胞膜ナノチューブによる物質運搬と肝芽腫細胞の悪性化の関係、③ 肝芽腫幹細胞と細胞膜ナノチューブの関係の解明を進めていきたい。
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