研究課題
基盤研究(C)
腹部大動脈瘤(AAA)は破裂に至ると非常に高い死亡率に達する重篤な疾患であるが、その形成・進展から破裂に至るまでの機序は未だに多くが不明である。本研究の目的は、血管周囲脂肪組織内の脂肪細胞(perivascular adipocyte:PAC)は、何らかの刺激により質的変化を起こし、様々な調節因子(アディポサイトカイン等)を分泌して周囲の免疫細胞(炎症細胞)の制御し、その炎症細胞の作用(分泌プロテアーゼ等)により動脈壁が脆弱化して瘤化に至るという仮説を検討するものである。さらに、PACやPAC由来の調節因子を治療標的とした研究も行う予定である。
腹部大動脈瘤(AAA)は進行性の大動脈疾患であり、最終的に破裂すると高い死亡率に至る。大動脈をはじめとする血管には血管周囲脂肪組織が存在し、そこには多数の脂肪細胞(血管周囲脂細胞:perivascular adipocyte: PAC)が含まれる。 前年度までの我々の研究では、このAAA病変のPACは過剰に脂質を取り込んで悪玉化しており、炎症性のサイトカインを高発現していること見出した。さらに これらのPACが存在するAAAの外膜領域において、様々な炎症細胞の高度な浸潤が認められた。一方、大動脈をはじめとする血管には血管内血管や血管内リンパ管 が存在し、その血管壁における様々な分子や細胞(炎症細胞など)の運搬を担っていると考えられている。前年度までの研究で、外膜境界域で血管内血管は巨大化し、血管内皮細胞で細胞間接着分子の低下や内皮細胞自身のアポトーシスが認められ、さらに出血様の病理所見も多数観察されたことから、AAAにおける血管内血管の脆弱化が示唆された。一方で動脈硬化巣と同様に、大動脈瘤病変の血管内膜にも血管内血管が存在していることが知られている。さらに研究を進めたところ、、内膜内では血管内血管が増加し、それらは外膜より延伸してきた血管内血管であることが考えられた。以上のことから、この血管内血管の変化はAAAにおける炎症に起因する血管新生因子によることが予想され、AAAの進展に関与する可能性が考えられた。本年度は、過去の報告等も参考にし、これらAAAの病変部位の血管内血管でのグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)やGLP-1受容体(GLP-1R)の検討した。その結果、AAAの進行に伴い、AAA外膜に存在する血管内血管においてGLP-1やGLP-1R発現の有意な抑制が認められた。またこれらの発現は、主に血管内血管の平滑筋細胞で認められた。以上の結果から、血管内血管のGLP-1系が、AAA形成に何らかの役割を果たしている可能性が考えられた。
3: やや遅れている
現在までの研究から、腹部大動脈瘤の外膜部における血管内血管の脆弱化が示唆されたことから、その原因を探る研究を行い、一定の成果を得た。しかしながら現在までの成果は、未発表ん部分が多く、これらを発表するという点においても「やや遅れている」という判断を下した。
本年度の研究から、GLI-1やGLP-1Rの発現低下が血管内血管の平滑筋細胞で見られ、これらの分子が臓器保護的な役割によってAAAの形成に関与している可能性がある。今後はこの点についても検討する予定である。また、これらと並行して現在までの成果を、学会や論文等で発表する予定でもある。
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