研究課題/領域番号 |
20K09183
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55040:呼吸器外科学関連
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
千田 雅之 獨協医科大学, 医学部, 教授 (70333812)
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研究分担者 |
林 啓太朗 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (10323106)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 胸腺癌 / スタチン / MAPK7 / 抗腫瘍活性 / 希少がん |
研究開始時の研究の概要 |
胸腺癌、浸潤型胸腺腫など胸腺上皮性悪性腫瘍は稀な疾患ということもあり、肺癌に比べその研究は遅れている。さらに近年胸腺癌は独立した疾患であることが明らかになり、かつtype A, B3胸腺腫からの胸腺癌への移行も時に認められる。しかし、胸腺癌の薬物療法は未だ確立されておらず、新たな薬物療法の開発が早急に求められる。 本研究は、胸腺癌におけるHMG-CoA還元酵素の重要性について、患者検体および胸腺癌細胞株を用いた臨床および基礎的な視点からの検討を行い、スタチンを用いた胸腺癌における新たな治療戦略の確立を目指す。
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研究実績の概要 |
ヒト胸腺癌切除検体を用いた検討で、免疫組織染色にて癌組織にHMG-CoA還元酵素の発現を認め、正常胸腺上皮にはその発現を認めないことを確認した。 胸腺癌細胞株Ty82を用いたin vitroの実験において、スタチンのうちfluvastatinが最大の効果を持って細胞増殖を抑制し細胞死をもたらすことを明らかにした。fluvastatinは、HMG-CoA還元酵素を抑制することでメバロン酸の産生を抑制するが、この細胞増殖抑制はメバロン酸の産生阻害によることを明らかにした。また、メバロン酸の代謝物質であるgeranylgeranyl-pyrophosphate(GGPP)およびsqualeneの添加実験では、GGPP産生阻害によるタンパク質のisoprenylationがfluvastatinによる細胞増殖抑制の主な経路であることがわかった。すなわち、fluvastatinは、細胞増殖に関わるメバロン酸から生成されsmall GTPaseに結合するisoprenoidであるGGPPの産生を阻害することで抗腫瘍活性を調整していることとなる。また、このメカニズムとして、ERK1/2のリン酸化(Thr202/Tyr204)阻害により細胞増殖を抑制することを明らかにした。ホモロジーサーチを行い、予想される大きさと一致するタンパクを検索したところ、ERK5(MAPK7)が推定された。実際、ERK5抗体でウエスタンブロットを行うと、標的のバンドと同じところにシグナルが現れ、このバンドはスタチン処理によりサイズが大きくなっており、リン酸化によりバンドがシフトした可能性がある。 一方、MAPK7は癌増殖促進因子であるため、MAPK7活性化によりスタチン癌抑制作用が低下する可能性が考えられる。そこで、siRNAによりMAPK7をノックダウンしたところ、Ty82の増殖が抑制されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vitroの実験においては予定以上に進行し、スタチンが胸腺癌細胞株の増殖を顕著に抑制することを見出した。さらに、スタチンにより活性化し、且つスタチンの抗癌作用を減弱させるタンパク質としてMAPK7を同定した。さらに、MAPK7がスタチンによる癌細胞増殖抑制効果を減弱させる可能性を明らかにできた。 臨床検体の解析では、有用な結果を得られ論文報告できたが、より多数の検体を用いたvaridationが必要と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今回の研究の知見は、MAPK7がスタチンの胸腺癌抑制効果を減弱させること、また、スタチンとMAPK7阻害薬との併用による増殖抑制相乗効果が胸腺癌の治療戦略として極めて有用である可能性を示唆したものとなる。今後は、スタチンとMAPK7阻害薬の併用によるがん治療戦略の確立を目指す。
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