研究課題/領域番号 |
20K09197
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55050:麻酔科学関連
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
山下 理 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (20610885)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 四肢虚血リモートプレコンディショニング / 虚血耐性 / 脳 / ターニケット / 虚血再灌流障害 / 水素ガス / 中大脳動脈閉塞 / 虚血再灌流 / 四肢虚血 / リモートプレコンディショニング / 神経保護 / 脳梗塞 |
研究開始時の研究の概要 |
フリーラジカルは脳保護にとっては諸刃の剣である.少量のフリーラジカルは虚血耐性現象を誘導するが,虚血再灌流時に生じる大量のフリーラジカルは神経細胞障害を引き起こす.前者の現象を利用する方法として四肢虚血リモートプレコンディショニングが,後者の現象を防ぐ方法の一つとして水素があげられる.共に副作用はほとんどなく単独ではすでに臨床研究が進行中である. リモートプレコンディショニングによる内因性の抗酸化機序活性化が,水素自体が持つフリーラジカルスカベンジャー作用を増強する可能性が考えらえれるが,両者の併用による神経保護効果の検討は行われておらず,本研究は臨床研究を見据えた橋渡し的な研究になり得る.
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研究実績の概要 |
四肢虚血リモートプレコンディショニング(RLIP: remote limb ischemic preconditioning)の条件付けの確認を施行した.ターニケットを用いたRLIPは簡便で有効な方法であるが,虚血時間が長いと神経障害を生じる可能性がある.臨床では四肢の無血野を得るためにターニケットを使用する場合,2時間を目途にターニケットを解除して10分から15分程度の再灌流時間を確保することが多い.ラットでは1時間以上の虚血で神経障害が発生する危険があり,それを超過する虚血時間は避けるべきであり,一方でこれまでの動物実験の結果から直接虚血によるプレコンディショニングに比較してリモートプレコンディショニングでは前もって虚血の刺激を与えることで,内因性の保護機構の活性化を図るという意味では刺激は弱く,必要十分な虚血時間・回数が必要になると考えられる.総RLIP時間は60分で一定とし,虚血時間・再灌流時間×繰り返し回数を、10分・2分×6(10 RLIP)群,20分・5分×3(20 RLIP)群,30分・10分×2(30 RLIP)群,60分・0分×1回(60 RLIP)群で比較した時20RLIP群でcontrol群に比べて有意に脳梗塞体積の減少,神経保護効果を認めた. RLIPはおそらく虚血再灌流によるフリーラジカル・酸化ストレスが関与していると考えられるが,それには閾値があり弱すぎでもプレコンディショニングとして効果がないが,強すぎる場合は個体の死亡や神経障害など重度の合併症が生じる可能性が示唆された. これまで水素ガス単独による保護効果は確認しているが,水素ガスはその作用機序の一つにフリーラジカルの除去,内因性の抗酸化機構の活性化が考えられており,投与のタイミングによってはお互いの作用を打ち消す可能性も考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は研究施行者の一身上の都合により十分に研究に時間を割くことが出来なかった.また実験機器の不具合や破損により,その修理や器具・パーツの取り寄せに時間を要した.そのためできる範囲でこれまでの実験結果をまとめ,データを整理・解析する作業も同時に施行した.いくつか問題点も明らかになっており,神経保護効果の指標として今回は脳梗塞体積と神経欠損スコアを使用したが神経欠損スコアは以下に示すような簡便なものであるが,必ずしも脳梗塞体積・神経障害度と比例しないことが示唆された. Neurological deficit score 0: no neurological deficit, 1: failure to fully extend the left forepaw 2: circling to the left, 3: falling to the left, 4: unable to walk spontaneously いくつかの論文では実際に使用されているが,術後7日目となると多くのラットがかなりの脳梗塞を認めてもスコアは0か1となり,3もしくは4のラットは死亡してしまうため差が出なくなると考えられる.もう少し詳細なスコアを用いる必要があったかもしれない. それからRLIPの閾値の評価・判定材料としてマルチプレックスアッセイキットを使用してある程度網羅的に炎症マーカーや酸化ストレス・抗酸化機構を評価することを検討していたが,外注での測定が必要になり,コストもかなりかかるため,ある程度項目を絞っていく作業が必要となり,またどこの業者に委託するかその選定も行わなければならない.多くは血液を遠心分離して血清を冷凍保存して提出すれば良いようなので,どのタイミングで何匹程度採血するか計画中である.
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今後の研究の推進方策 |
RLIPの条件付けのアウトカム研究結果を7月の神経麻酔集中治療学会で発表する予定である.その機序の一端の解明まで踏み込めればよかったが,アウトカム研究結果でも十分に意義があると考え,また何か御意見が頂ければと考えている. 水素ガスについてはこれまで水素ガス発生装置を使用した6%水素ガス投与によって最も神経保護効果を認めたが,当教室の家兎脊髄虚血モデルでは2%の水素ガスと水素水を併用して保護効果はなかったとも報告している.高濃度水素ガス投与については,その燃焼性・危険性から必ずしも十分なコンセンサスが得られておらず,その使用・適応には注意を要するかもしれない.院外心停止症例に水素ガス投与を併用したRCTにおいてコロナ禍の影響で患者数が確保できず,また医療スタッフの労力の問題から,予定人数前に打ち切りとなり,主要評価項目では有意差が出なかったことは残念であるが,今回の研究からは水素ガス自体は脳を含めた臓器保護効果を有する有望な物質の一つであると考えている. RLIPはナイロン糸を用いた2時間のラット中大脳動脈閉塞モデルにおいて,虚血1時間前に20分虚血・5分再灌流を3回繰り返すプレコンディショニング刺激が最も有効と判明したため,それぞれの条件付けはできていると考えている.どのタイミングで併用してその効果を評価していくかはこれからの検討課題であるが,残りの期間の中で有効な施策を考えていきたい.またマルチプレックスアッセイキットを使用した解析も同時並行で進めていく予定である.どうしても機序の解明は後手後手に回ってしまい,アウトカムがメインになってしまっているのが今回の研究の問題点の一つであると考えているが,逆に考えればアウトカムがきちんとわかっていれば方向性としては間違っていないと思われる.
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