研究課題/領域番号 |
20K09335
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56010:脳神経外科学関連
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
長谷川 光広 藤田医科大学, 医学部, 客員教授 (70218460)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 逆行性変性 / 神経細胞死 / 顔面神経 / 脳幹損傷 / 脳槽部位損傷 / 神経保護 / facial nerve / facial nucleus / retrograde / degeneration / neuroprotection / regeneration / retrograde degeneration |
研究開始時の研究の概要 |
茎乳突孔から顔面神経軸索を引き抜くことで再現性の高い顔面神経核神経細胞逆行性変性ラットモデルを作成する。変性度の高度な脳幹内損傷モデル、変性の軽微末梢損傷モデルとも比較しながら、引き抜き損傷モデルに各種神経変性抑制、再生促進物質を投与することで,神経変性抑制、再生促進のメカニズムを追求することで、外傷や腫瘍性疾患に加えて、発症初期から顔面神経細胞の変性脱落を起こす運動ニューロン変性疾患等への外科的治療介入の可能性を見いだす。
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研究実績の概要 |
運動系脳神経の代表の1つである顔面神経は、顔面の表情、閉眼、口すぼめ等を司る機能を有するが、脳幹等での障害により起こる場合には表情の非対称性から来る整容問題のみならず、兎眼、流涎、角膜潰瘍から失明、咀嚼・構音障害等の永続的な障害が出現し生命さえ脅かしかねない。速やかに回復する末梢性顔面神経麻痺とは対照的に、脳幹や脳槽内における軸索損傷負荷が顔面神経核に早期から逆行性変性を引き起こし、多くの神経細胞が脱落してしまう事が予後不良の本体と仮説を立てて、再現性の高い脳槽内損傷モデルとして顔面神経を頭蓋外から引き抜くことで脳槽内で軸索損傷を引き起こす事に成功した(Neuroprotective effects of pregabalin in a rat model of intracisternal facial nerve avulsion. J Neurosurg Sci. 2017)。このモデルへのpregabalin投与の変性抑制効果は、電位依存性Caチャネルのα2δサブユニットとの結合を介して、Caチャネルの細胞表面での発現量及びCa流入が抑制され、グルタミン酸等の神経伝達物質遊離を抑制する機能が働くものと推定された。変性抑制効果のメカニズム探究の一環として、免疫抑制剤であるcalcineurin inhibitorのTacrolimus(細胞内FK506 binding proteinと特異的に結合して複合体を形成し、カルシニューリンによるnuclear factor of activated T cellの脱リン酸化を阻害することで脊髄損傷モデルや脳虚血モデルで神経保護作用とアポトーシス抑制作用の報告あり)に注目し、免疫抑制が顔面神経細胞核の逆行性神経細胞変性に与える影響とその作用機序の解明をめざしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
成雄ウィスターラットの耳介後部に2cmの皮膚切開から茎乳突孔より末梢(すなわち頭蓋外)で顔面神経本幹を露出し、長軸方向に緩徐に6mm引き抜き、脳槽内顔面神経切断モデル(すなわち頭蓋内顔面神経損傷モデル)を作製する。このモデルは我々が発案作成し、急速な逆行性変性を報告しており詳細は別紙に譲る(J Neurosurg Sci. 2017)。術後連日tacrolimus皮下投与(Day0-6、1mg/kg/day)、control群は0.9%NaClを同量投与する。術後Day 4, 7, 14, 28で健病側の顔面神経核内細胞数を計測すると、顔面神経核内の生存神経細胞は、Day14,28ともに損傷側で神経細胞数は有意に減少している事が判明した。Tacrolimus投与群の顔面神経細胞減少率はday14では低下傾向を示し、day28では有意に抑制され、Tacrolimusによる逆行性変性抑制効果がある事を検証し得た。免疫染色では、ミクログリア(Iba1陽性細胞)はday14で減少、day28で増加し、アストログリア(GFAP陽性細胞)の発現には差はなかった。マクロファージ(活性化マイクログリア、CD68抗体陽性細胞)は損傷側の顔面神経核内神経細胞周囲に散在性に認めたが、健側では認めなかった。リアルタイムPCRにて、CD68、IL-10、IL-2、TNF-αの発現をみることで、本モデルにおけるサイトカインの関与の詳細を遺伝子レベルで解明する予定であるが、いろいろなトラブルから実証が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
Tacrolimusは、細胞内でFK506結合蛋白と複合体を形成し、さらにカルシニューリンに結合することでIL-2などのサイトカインの発現を抑制する。これにより、細胞傷害性T細胞の分化や増殖が抑制され、細胞性免疫・体液性免疫の両方を抑制する。ミクログリアは脳内のマクロファージ様細胞であるが,神経栄養因子の放出や細胞死に陥った神経細胞やグリア系細胞のdebrisの除去などを通じて神経保護効果をもたらす。活性化されたミクログリアは炎症性サイトカインに加えて、一酸化窒素(NO)やフリーラジカル,興奮性アミノ酸などの多くの神経傷害因子を放出して炎症を引き起こし神経細胞を傷害するものと推定されている。逆行性変性過程におけるミクログリアの活性化を遅延させることが、Tacrolimus投与における逆行性変性の抑制の一因であるとの仮説の元に、リアルタイムPCRにて、組織内のCD68、IL-10、IL-2、TNF-αの発現を計測し、実際の炎症性サイトカインの動態を評価する。また最近の細胞療法の急激な発展に伴い、iPS細胞とこれより誘導された神経前駆細胞、脂肪幹細胞、骨髄幹細胞などの細胞が臨床応用可能になりつつある。また、iPS細胞から誘導されたミクログリア投与も機序の解明に有用と思われる。これらの細胞療法を本モデルに使用してそれぞれの効果を比較できればより変性・変性抑制メカニズムを解明でき、治療につながるものと思われる。
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