研究課題
基盤研究(C)
高齢化が進んだ我が国において、ロコモティブシンドロームの原因となる骨粗鬆症とサルコペニアへの対策が急務となっている。骨量と筋量の減少は同時に生じることが多く、骨と筋の相互連関が生理あるいは病態において重要な役割を果たすことが示唆されているが、その分子メカニズムは明らかにされていない。荷重負荷により骨量と筋量を増加させるためには、本課題の遂行が必須であると考えた。① 骨・筋の局所的調節、② 体液性因子による全身的調節、③ ゲノムによる調節、という3つの側面から研究を遂行する。
本研究の目的は、骨と筋の連関を生体と分子レベルで解明することである。令和4年度は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)による骨粗鬆症モデルマウスを用いて、骨と筋の組織を定量的に評価するとともに遺伝子発現を解析した。COPDに合併する筋骨格系疾患の病態に関しては未だ不明な点が多いが、我々はエラスターゼ(PPE)誘導性の肺気腫によるCOPDモデルマウスを作成し、骨量減少とI型筋線維萎縮が生じていることを明らかにした。12週齢雄C57BL/6Jマウスに、salineまたはPPE 0.025 Uまたは0.1 Uを気管内投与し、Saline群、PPE0.025投与群、PPE0.1投与群とした。投与後12週時点で骨と筋を評価した。その結果、PPE0.025投与群およびPPE0.1投与群では肺胞壁間距離の有意な増加を認め、肺気腫の組織学的変化を示した。DXAおよびマイクロCTによる評価で、PPE0.1投与群の腰椎、大腿骨、脛骨では、Saline群と比べて、骨密度と海綿骨量が減少し、骨形態計測学的評価で、骨形成能(MAR、BFR/BS)が低下していた。PPE0.1投与群の血清オステカシン濃度は低値であった。PPE0.1投与群のヒラメ筋重量、I型筋線維がSaline群と比べ有意に減少していた。Ⅱ型筋線維については、PPE投与群とSaline群との間に差はなかった。COPDの肺気腫の程度(肺胞の平均直径)が大きくなる(重症化する)と、大腿骨遠位部の海綿骨量が減少するとともに、ヒラメ筋における筋量、筋断面積、I型筋線維の割合は、有意な相関をもって低下した。PPE0.1投与群のヒラメ筋ではp38 MAPKシグナル経路が活性化していた。COPDモデルマウスでは、肺気腫の重症化とともに、海綿骨量が減少し、I型筋線維が優位なヒラメ筋で筋量が減少した。Ⅱ型筋線維が優位な筋では筋萎縮がみられなかった。
2: おおむね順調に進展している
臨床でしばしば問題となる慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の骨粗鬆症について、COPDモデルマウスを作成し、骨と筋の連関について解析した。COPDの肺気腫の重症化とともに、海綿骨量が減少し、Ⅱ型筋線維が優位な筋においては変化はないが、I型筋線維が優位なヒラメ筋において筋量が減少する事実を明らかにした。当初の計画と照らし合わせて、おおむね順調に進展していると判断できる。
今後も引き続き、骨と筋をともに制御する機序に着目して研究を進めるとともに、 慢性閉塞性肺疾患(COPD)モデルマウスを用いて、Ⅱ型筋線維が優位な筋においては変化はないが、I型筋線維が優位なヒラメ筋において筋量が減少する分子メカニズムを探索していく。これらの研究から骨と筋の双方を制御する分子メカニズム、骨-筋相互連関を明らかにする方策である。
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